長い会社員生活に終止符を打ち、迎えた定年退職の日。多くの人が、晴れやかな瞬間を迎えることでしょう。しかし、時間に縛られない“夢のセカンドライフ”が、実はそう長くは続かない現実をご存じでしょうか。楽しみだったはずの趣味に飽き、手元には膨大な時間だけが残る――。本記事では、ふくしまゆきお氏の著書『定年後を豊かにするシンプルライフ お金・モノに頼らない生活の実現へ』(ごきげんビジネス出版)より、定年後のリアルに迫ります。
60歳・定年退職日、花束を抱え「明日から自由だ」と喜んだ夫…しかし翌朝、リビングでの妻の一言で始まる“行き場のない地獄”
定年退職、時間があっても毎日旅行・ゴルフはしない
私は60歳の定年とともに会社を去りました。退職日の解放感は忘れられません。職場で最後のあいさつをし、お世話になった人たちに見送られてエレベーターに乗り込みました。ホッと一息つき、「これからは、昔の人たちの暮らしや生き方を調べ、彼ら彼女らの『人生の楽しみ方』を学ぶことに時間を使おう」と思った次第です。
「ネクタイは犬の首輪と一緒。ネクタイをしているうちは会社につながれている」と父親がいっていたのを思い出しました。漠然とした不安をもってではありますが、一歩踏み出したのです。
PGF生命が還暦になった人へのアンケートを毎年行っています。2024年のアンケート結果を見ると、叶えたい夢や目標の第1位は「旅行をする」でした。「日本1周をする・世界1周をする」をあわせると、男女2千名の回答者のうち365名が旅行を挙げています。
2位は「健康に過ごす・健康になる」で127名ですから、旅行がダントツ1位です。しかしながら、旅行三昧といっても、1年もせずに飽きてしまう人が多いのが実状。夢が簡単に叶ってしまうのです。旅館の豪勢な夕食・朝食、各地の名物料理を食べ続けるのは1週間が限界。車で日本各地を巡る人、海外に行く人もいますが、結局のところ「年2〜3回の旅行でいいか」となることが多いのです。
ゴルフは人気スポーツで、65歳以上の男性がグループで行うスポーツの実践者数は第1位です(2019年)。ゴルフ場の近くに住みゴルフ三昧の人もいますが、毎日のようにプレーをしている人はほんのひと握りです。勤め人時代はどれほど朝早くてもゴルフ場へ行くのが楽しみだった私の友人も、「週に数度の練習と一度のコースで十分だ」といっていました。
多くの人は貴族のように来る日も来る日も遊び続けられません。貧乏性といえば貧乏性なのです。さて、あなたは定年後や仕事を辞めたあとの暮らし方、楽しみ方をどのようにお考えでしょうか?
最後の出勤を終えて花束をもって帰宅し、翌日はのんびり。問題はそのあとです。旅行をするけど、楽しみはとくにない。これでは切なくないでしょうか。そのときは確実にやってきます。多くの人は役職の限界が見えてくる50代後半から漠然と考えはじめ、定年を経て、継続雇用がおわるころ真剣に考えはじめていると思います。
しかし、それではいささか準備不足なのです。会社を離れた日から何が起こるのかを、まずは考えてみましょう。