日本では男女ともに平均寿命が昭和から延びており、長寿国として知られています。それにともない、老後や相続に向けた「終活」の人気が高まっていますが、具体的に何をすべきか知りたいという方も多いのではないでしょうか。終活を実践するなら、まずは基礎知識をしっかり身に付けたうえで、活動内容を検討したいところです。この記事では、終活の概要や人気が高まった背景。そして終活を始めるメリット、適切なタイミング、必要不可欠な活動について解説します。

 

そもそも終活とは?

終活とは、簡潔に説明すると「人生の終わりを見越して行なう活動」のことです。活動と一口にいっても内容はさまざまですが、以下のような事柄を円滑に進めるための事前準備を指します。

 

・医療や介護の手配
・葬儀の準備
・お墓の建立
・身の回りの整理
・遺産相続

 

「人生の終わり」や「葬儀」といったキーワードから、終活に対してネガティブな印象を抱いてしまう方もいるかもしれません。しかし、終活には「家族や周囲の方に迷惑をかけない」だけではなく、「これからの人生を自分らしく生きる」という目的もあるので、むしろポジティブな活動として取り組まれています。

 

終活は単なる準備ではなく、今後の人生を充実させるためにも重要な活動といえるでしょう。

終活の人気が高まった背景とは?

近年、終活の人気が高まっていますが、その背景には以下のような事情があります。

 

・少子高齢化、核家族化の進行
・長寿化の進行
・離婚、再婚、事実婚などの増加

 

終活の必要性にも直結する部分なので、きちんと押さえておきましょう。

 

少子高齢化・核家族化の進行

昔の日本は家族および地域とのつながりが強かったため、老後・死後のことも周囲に安心して任せられる傾向がありました。

 

しかし、今の日本は高齢化率(総人口に対する65歳以上人口の割合)が3割弱に達するなど、少子高齢化が著しく進行している状況(2022年度)です。さらに、核家族化が進んでいるので、周囲に頼れる家族や親戚がいないという方も少なくありません。

 

このような事情から自分が望む最期を迎えるためには、あらかじめ自分で備えるべきという方が増えています。

 

参考:内閣府 令和4年度 高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況

 

長寿化の進行

医療技術の進歩もあり、日本は世界有数の長寿国となっています。

 

厚生労働省の「簡易生命表(令和4年)」によれば、日本人の平均寿命は男性では81.05歳、女性では87.09歳です。平均寿命は戦後から右肩上がりであり、今後も延び続けると予測されています。

 

長寿化の進行にともない、介護や認知症への対策、お墓の準備などに関心・責任を持つ高齢者も増えているのです。

 

離婚・再婚・事実婚などの増加

厚生労働省の「人口動態調査」によると、日本の離婚件数は1980年時点で14.2万件、2010年時点で25万件、2021年時点で18.4万件です。離婚件数自体は近年減少傾向にあるものの、昭和と比べると増えています。また、未成年の子どもがいる離婚件数は全体の約6割を占めています。それにともない、子連れ再婚家庭(ステップファミリー)も増えている状況です。

 

離婚・再婚した場合、家族関係が複雑化しやすいので、遺産相続にまつわるトラブルが起こる可能性も高くなります。そのため、生前の相続対策が欠かせません。

 

また、近年は事実婚や同性カップルを公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」を導入する自治体も増えているので、パートナーに遺産を譲りたいというケースもあるかもしれません。

 

終活のメリット

終活に取り組めば、以下のようなメリットを得ることができます。

 

・死に対する不安を解消できる
・自分らしい人生を実現できる
・家族の負担を軽減できる
・遺産相続のトラブルを予防できる

 

各メリットを詳しく解説するので、ぜひご確認ください。

 

死に対する不安を解消できる

年齢を重ねるにつれて、健康状態だけではなく「死」と向き合う機会も増えることになります。終活は死を見越した活動のため、どうしても縁起が悪いと思われがちです。

 

しかし、終活を行なうことにより、自分が置かれている状況を客観的に把握しつつ、今まで歩んできた人生を総括・整理できるようになります。その結果、死に対する不安が和らいだという方も少なくありません。

 

死への不安を解消することで、悩みやストレスの軽減にもつながります。

 

自分らしい人生を実現できる

終活は人生の終わりだけではなく、「これからの人生をどう生きるべきか」ということも考えます。自分の人生を振り返ったうえで、やるべきこと・やりたいことを明確化できるため、結果的に「残された時間を有効活用しよう」と気持ちが前向きになることもメリットです。

 

終活を通じて今後の目標や夢が見つかるので、より自分らしい充実した人生を送れるようになります。「毎日が退屈」「家でゴロゴロしているだけ」といったこともなくなるでしょう。

 

家族の負担を軽減できる

人が亡くなった場合、遺された家族は気持ちの整理がつかないうちに、葬儀やお墓の準備をしなければならないため、心身に大きな負担がかかりがちです。

 

終活であらかじめ葬儀やお墓について決めておけば、自分の死後に家族が迷ったり悩んだりすることが減ります。結果的に遺された家族の負担を軽減できるため、安心して人生の最期を迎えられるでしょう。

 

遺産相続のトラブルを予防できる

遺産相続のトラブルと聞くと、資産家で起こるものというイメージがあるかもしれません。

 

しかし、最高裁判所 司法統計情報(令和4年)によると、裁判所に持ち込まれる遺産分割トラブルの約30%は資産額が1000万円以下、資産額5000万円以下も含めると約75%を占めます。決して資産家だけの問題ではありません。

 

修復できないほど家族の仲が険悪になってしまう可能性もあるため、自分が生きているうちに対策したいところです。

 

終活の一環として遺言書を作成し、あらかじめ遺産の分配方法などを明記しておけば、遺産相続のトラブルを未然に防ぐことができます。

終活を始めるべきタイミングは?

終活に年齢のルールはないので、何歳から始めても問題ありません。定年退職や子どもの結婚などを踏まえて、60代から始めるケースが一般的です。

 

一方、40~50代のうちから始める方や、20~30代とかなり早いタイミングで始める方もいます。「20~30代は早すぎるのでは?」という意見もありますが、早く始めた分だけ自分の人生と向き合える時間が増えることも事実です。

 

終活のタイミングに絶対的な正解はないので、自分の現状や今後のライフプランを踏まえて検討しましょう。

 

終活における必要不可欠な活動7選

終活では、以下のような活動に取り組む必要があります。

 

・エンディングノートの作成
・財産の整理
・身の回りの整理
・医療、介護の意思表示
・葬儀、お墓の準備
・遺言書を作成する
・老後の資金計画を立てる

 

活動内容の概要をまとめたので、ぜひ参考にしてみてください。

 

エンディングノートの作成

エンディングノートとは、以下のような内容を記入するノートです。

 

・個人情報(氏名・生年月日・本籍など)
・自分史(生い立ち・経歴・趣味など)
・親戚や友人の連絡先
・財産情報(銀行口座・不動産・株式など)
・医療、介護に関する要望
・葬儀、お墓に関する要望
・遺言書の有無
・家族や友人へのメッセージ

 

エンディングノートに法的効力はありませんが、自分の意思や誰かに伝えたいことを自由に書き残せます。様式に決まりはないため、市販のノートなどを使って作成しても問題ありません。

 

財産の整理

「通帳や銀行印が見つからない」「資産運用の状況がわからない」など、自分の財産情報を伝えきれず、家族が困ってしまうケースはよく見受けられます。

 

家族に負担をかけたくなければ、預貯金・不動産・有価証券・貴金属といった財産をチェックし、不要なものは解約や売却しましょう。財産が多くて整理しづらい場合、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することを推奨します。

 

また、財産の保管場所や管理方法をあらかじめ家族に伝えておくことも大切です。

 

身の回りの整理

遺品整理は時間とお金がかかるので、家族に負担をかけてしまいます。そのため、生前に身の回りにあるものを断捨離しておくことが大切です。

 

断捨離を行なう際は、あらかじめ「1年間使っていないものは捨てる」などルールを決めておくと、不用品をスムーズに処分できます。

 

また、メールアドレス・SNSアカウント・スマートフォン内の個人情報など、デジタルデータを整理することも大切です。残したいデータと不要なデータを分けて、後者は早めに処分しましょう。

 

医療・介護の意思表示

突然大きな病気にかかってしまった場合、医療・介護に関する要望を伝えられない可能性もあります。残りの人生を有意義に過ごすためには、事前にどのような医療・介護を受けたいか話し合ったり、エンディングノートに記載したりすることが大切です。

 

「延命治療は避けたい」「要介護になったら施設に入りたい」など、自分の意思をはっきりと伝えましょう。

 

葬儀・お墓の準備

生きているうちに自分の葬儀方法を指定したり、お墓を購入・建立しておいたりすれば、家族への負担を減らすことができます。葬儀については形式や返礼品を、お墓については場所やデザインを具体的に決めておきましょう。

 

また、生前にお墓を購入した場合、相続税の課税対象となる資産が非課税の墓地・墓石に変わるので、結果的に相続税を節税できます。

 

遺言書を作成する

あらかじめ法律の要件に沿って遺言書を作成しておけば、遺産相続のトラブルを防ぐことができます。遺言書は大きく分けると、以下の3種類があります。

 

・自筆証書遺言:本人の自筆(手書き)のみで作成する。財産目録についてのみパソコンでの作成が可能
・公正証書遺言:公証人に作成・保管してもらう
・秘密証書遺言:遺言の内容を秘密に保管するため、封を施した遺言書の封筒に、遺言書が本当に入っていると公正証書の手続きで証明する

 

遺言書は何度でも書き直せるので、思い立ったタイミングで作成しても構いません。確実にトラブルを防止したいなら、弁護士などに相談するのも一案です。

 

老後の資金計画を立てる

老後も安心して暮らすためには、預貯金や年金額をチェックしつつ、生活費のシミュレーションを実施したいところです。所有財産やライフスタイルによりますが、年金収入だけでは生活が苦しくなる可能性もあるので、老後の資金計画はきちん立てる必要があります。

 

もし、老後の資金が不足しそうな場合、投資などによる資産形成を視野に入れましょう。

 

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不動産投資は比較的安定した収入を確保しやすいので、老後に向けた資産形成に適しています。

 

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まとめ

少子高齢化や長寿化が進んでいる現在、老後や相続に備える終活が注目されています。家族に負担をかけないというだけではなく、自分らしい人生を実現するという目的もあるため、ポジティブに取り組める活動です。

 

終活はやるべきことが多いので、まずはリストや表にまとめるなど具体化をしていきましょう。そして、エンディングノートや遺言書の作成など、取り組みやすいタスクからこなしていくと効率的です。

 

また、老後の資産形成を考えているなら、初心者でも始めやすい不動産投資クラウドファンディングをご検討ください。

 

■監修者

氏名:齋藤 彩(さいとう あや)
保有資格:AFP(Affiliated Financial Planner)、薬剤師免許
主なキャリア:急性期総合病院において薬剤師として勤める中、がん患者さんから「治療費が高くてこれ以上治療を継続できない」と相談を受けたことを機にお金の勉強を開始。ひとりの人を健康とお金の両面からサポートすることを目標にファイナンシャルプランナーとなることを決意。現在は個人の相談業務・執筆活動を行っている。

 

※本記事は「COZUCHI magazine」で、2024年01月30日に公開された記事の転載です。