「夫婦で旅行三昧、悠々自適な老後」が一転、定年からわずか3年で離婚、退職金も年金も分割され、小さなアパート暮らしに...。今回は、そんな"転落シニア"となった元会社員男性の事例をご紹介します。長年の勤務に満足していた男性が、なぜ熟年離婚に至り、生活基盤を失うことになったのか。その背景には、見過ごされがちな「夫婦の感情的すれ違い」と、「離婚後の思わぬ経済リスク」が潜んでいました。FPの三原由紀氏が解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
こんな老後になろうとは…〈年金25万円〉〈退職金2,000万円〉〈貯蓄1,500万円〉66歳元会社員「妻とのんびり温泉巡り」のはずが、小さなアパートにポツン。ひとり項垂れる「転落シニア」の悲哀【FPの助言】
急増する熟年離婚、その経済的リスクとは
熟年離婚は、いまや他人事ではありません。厚生労働省の人口動態統計によると、同居期間20年以上の熟年離婚は年々増加傾向にあり、2022年には約3万9,000件と過去最高を記録しました。特に同居期間35年以上の離婚件数は高止まりしていることが示されています。
本来、定年は“第2の人生のスタート”であり、夫婦の関係を再構築するチャンスでもあるはず。しかし、夫婦で向き合う準備が整っていなければ、リタイア後の同居時間はストレスの引き金にもなり得るのです。
さらに、離婚による経済的ダメージは、多くの男性が想像する以上に深刻です。特に以下3つの制度的リスクを理解していない方が多く見受けられます。
・年金分割制度を事前に理解しておく
「自分が納めた年金は自分のもの」という認識は大きな誤解です。結婚期間中の厚生年金は「夫婦で築いた共有財産」とみなされ、最大で半分まで分割される可能性があります。
・退職金・貯蓄の財産分与
名義に関係なく、婚姻期間中に形成された資産は基本的に分割対象となります。「俺が稼いだ金だ」という主張は法的には通用しません。
・持ち家の処理
共有名義でなくても、婚姻期間中に取得した不動産は財産分与の対象です。売却して現金化するか、一方が住み続ける代わりに他の財産で調整するかの選択を迫られます。
正雄さんのケースを振り返ると、月15万円の年金収入で都内アパート暮らしでは、現金2,300万円も25年程度で底をつく計算になります。「まさか66歳になって、こんな生活になるとは…」と肩を落とす正雄さんの姿は、決して特殊な事例ではないのです。