「夫婦で旅行三昧、悠々自適な老後」が一転、定年からわずか3年で離婚、退職金も年金も分割され、小さなアパート暮らしに...。今回は、そんな"転落シニア"となった元会社員男性の事例をご紹介します。長年の勤務に満足していた男性が、なぜ熟年離婚に至り、生活基盤を失うことになったのか。その背景には、見過ごされがちな「夫婦の感情的すれ違い」と、「離婚後の思わぬ経済リスク」が潜んでいました。FPの三原由紀氏が解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
こんな老後になろうとは…〈年金25万円〉〈退職金2,000万円〉〈貯蓄1,500万円〉66歳元会社員「妻とのんびり温泉巡り」のはずが、小さなアパートにポツン。ひとり項垂れる「転落シニア」の悲哀【FPの助言】
年金も退職金も分割…「離婚でここまで失うとは」
「家も手放しましたし、退職金も1,000万円持っていかれました。年金まで…ですよ?まさかここまで取られるとは思いませんでした」
離婚の財産分与により、2,000万円の退職金はほぼ半分を恵子さんに分ける形に。さらに「年金の分割制度」により、正雄さんの厚生年金も恵子さんへ一部が移転されました。
年金分割とは、離婚時に夫婦が結婚していた期間に納めた厚生年金の報酬比例部分を分け合う制度です。特に2008年以降は、会社員・公務員の配偶者が扶養内だった期間について、相手の合意なしで最大2分の1まで分割請求できる「3号分割制度」が導入され、分割請求のハードルが大幅に下がりました。
ただし、対象はあくまで“婚姻期間中に形成された年金”であり、国民年金(基礎年金)は分割対象外です。
正雄さんの場合、月額18万円だった年金(老齢厚生年金11万円+老齢基礎年金7万円)が、分割後は約15万円に減額。一方で恵子さんは、自身の基礎年金7万円に加え、分割された厚生年金約3万円を受給できるようになりました。
財産分与で自宅を恵子さんに譲渡したため、手元には現金約2,300万円(退職金残額1,000万円+貯蓄1,500万円-離婚関連費用約200万円)が残りました。離婚関連費用には、弁護士費用、不動産名義変更費用、引越し費用などが含まれます。「それだけあれば十分」と思われるかもしれませんが、都内での一人暮らしとなった正雄さんにとって、家賃などの固定費増加と昨今の物価高が直撃します。
「旅行どころか、いまは家賃8万円のワンルームアパート暮らし。駐車場代も月10,000円。ガソリン代や維持費を考えると、愛車も手放すしかないかもしれません」