老後の社会性を保つには

クリスティン:社会とのつながりを保つことは本当に大事だと思います。他人とかかわることで脳も活性化されますから。逆に誰ともつきあわずにいるとコミュニケーション能力が落ち、外の世界に対する興味も薄れていく。すると自己中心的になって、自分の狭い世界で起きていることだけに関心が向くようになります。自分の話ばかりする人は一緒にいてもつまらないです。

マイケル:それはまちがいなく気をつけないといけない点ですね。正直、SNSは大したものです。退職者がつくったSNSグループには、誠実で愉快な人が集まって、信じられないほどいいコミュニケーションの場となっているものもあります。同じ境遇にある人同士だからこそ、つっこんだ話ができます。彼らはSNSを使って現代におけるリタイアの意味を追究しています。すばらしいことだ。

でもSNSのせいでいやな思いをしたり、孤独を深めたりする人もいます。あなたが指摘したとおり、孤独が孤独を呼ぶという負の連鎖に陥りやすい。年をとるにつれ、まるで自分が透明人間になったかのような感覚を持つ人は少なくありません。老いにともなう悲劇といいますか、社会とつながっているという感覚を保つのがとても難しいんです。

「年齢とともに騙されやすくなる」を受け入れる

クリスティン:年齢とともに変化することはほかにもありますか? そうした変化について事前に考えておけばうまく対処できるでしょうか?

マイケル:変化というか、年をとると騙されやすくなりますね。80代、90代になるとセールストークや詐欺を見抜くのが難しくなります。60代、70代のときのようにはいきません。

対策としてはまず、自分が騙されやすくなっていることに気づいてください。高齢化にともなう自身の変化を予測するのです。若いときはできたことができなくなるという事実を受け入れましょう。退職直後の自分を保ったまま老後を過ごせると考えてしまいがちですが、それがまちがいだということはデータからも明らかです。誰でも年をとれば無防備になる。それを前もって心得ておくのがいちばんの対策になります。

たとえばある年齢になったら自宅を処分すると最初から決めておく。子どもに催促されて、いやいや介護つき老人ホームに入るより、そのほうがずっといい。変化を強制されるのはいやなものです。誰だってそんな目には遭いたくない。

一定の年齢になったら住環境を変えようと考えているなら、認知機能がしっかりしているうちに下調べをしましょう。どんな場所で余生を過ごしたいかをイメージして、費用も確認しましょう。事前に大型の家具を売るなど身辺整理を始め、誰にも迷惑をかけず、自分も楽に、新たな環境に移行できれば成功です。リタイア後の人生を考える際、認知機能や身体機能の衰えを考慮しない人が多いですが、退職直後の自分と、80代、90代の自分は別人だと考えるべきです