「一攫千金の夢」に溺れた結果―投資家からギャンブラーへの転落

資産の急速な目減りに焦った若田さんは、次第に投資とギャンブルの境界線を越えていきました。「投資」という名のもとに、実質的なギャンブルに手を出し始めたのです。

「競馬は昔から好きでしたが、月に3,000円程度の娯楽でした。それが毎週末、数万円も使うようになっていました」と若田さんは告白します。G1レースでは10万円単位の馬券を購入するようになり、損失が積みあがっていくことになりました。

さらに、スポーツくじ、宝くじ、パチンコなど、様々なギャンブルに手を出すようになりました。「一度に大きく勝てば、これまでの損失を取り戻せる」という考えが頭から離れなくなっていたのです。

「妻に隠れて投資信託を解約し、その資金でギャンブルをしていました」と若田さんは当時を振り返ります。一度、競馬で50万円勝ったことがありましたが、その勝利は彼をさらなる深みへと誘い込むだけでした。

そして、65歳での退職から7年後には、かつて7,000万円あった資産は2,100万円にまで減少していたのです。

妻の涙が人生の転機に―どん底からの再生と新たな人生観の発見

資産の7割を失った現実に、ついに若田さんは立ち止まらざるを得なくなりました。決定的だったのは、妻が偶然、彼の通帳を見つけたことです。

「妻が泣きながら『これからどうやって生きていけばいいの?』と問いかけてきたとき、自分がなにをしてきたのかを初めて客観的に見つめ直すことができました」

この出来事をきっかけに、若田さんはファイナンシャル・プランナーに相談し、残された資産の現状分析と今後の生活設計を徹底的に見直しました。残された2,100万円をいかに守り、年金と合わせてどう安定した老後生活を送るかという現実的な計画を立て始めたのです。

若田さんは、まず全てのギャンブルをきっぱりとやめ、残った資産を安全性の高い投資信託や国債などに分散投資し直しました。また、生活費の見直しも徹底的に行い、支出を削減しました。

「今の資産と年金で老後を乗り切るには、厳しい生活管理が必要です。以前の生活からすれば大幅な縮小ですが、今は『失ったものを数えるより、残ったものに感謝する』という気持ちで生活しています」と若田さんは話します。