人生の終盤を迎えたとき、これまでの労苦に対する「ご褒美」が待っていると信じたくなるものです。特に退職金という大金を手にした瞬間、長年の我慢から解放された高揚感は、思わぬ方向へと私たちを導くことがあります。40年間堅実な投資で7,000万円の資産を築き上げた若田さん(仮名・72歳)が、なぜ突如として資産の7割を失うことになったのか。その背景には、誰もが陥りうる心理的な罠と、追い詰められたときの判断ミスがありました。この記事では、若田さんの体験から、退職後の資産管理における警鐘と、同じ轍を踏まないための具体的な心構えをFPの青山創星氏が詳しく説明します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
〈投資歴40年〉〈資産7,000万円〉〈年金月25万円〉の元会社員、“退職フィーバー”で大散財→「取り戻したい」と暴走。わずか7年で「資産の7割消失」の悪夢に妻号泣【FPの助言】
「失った資金を取り戻したい」…焦りのあまり投げ捨てた自分の投資哲学
「減った分を取り戻さなければ」という思いから、彼は自分の投資哲学を捨て、ハイリスク・ハイリターンの投資へと手を伸ばし始めました。仮想通貨、レバレッジをかけたFX取引、未公開株など、かつての自分なら絶対に手を出さなかった投資先に大金を投じたのです。
「友人から紹介された投資顧問会社の『確実に儲かる』という言葉を信じてしまいました」と若田さんは語ります。その会社が推奨する新興企業の株に800万円を投資しましたが、その企業は半年後に経営破綻。投資金はほぼ全額が水の泡となりました。さらに追い打ちをかけるように、FX取引でも大きな損失を被りました。
「一週間で500万円が消えました。目の前が真っ暗になりましたよ」
若田さんの失敗は、長年築いてきた投資哲学を捨て、自分の経験値がない分野に大金を投じたことでした。
「それまではインデックス型の投資信託や優良企業の株を長期保有するスタイルだったのに、焦りのあまり突然ハイリスクな取引に手を出してしまった。投資の知識なら多少はあるからと、自分を過信したんです」