久しぶりに帰省した実家で気づいた「母の異変」

実家に久しぶりに帰省した佐藤さんは、82歳になる母の様子に違和感を覚えました。近場の温泉に連れて行くと、急に不安な様子になり家に帰りたがるのです。早々に実家に連れ帰り、冷蔵庫を開けると賞味期限切れの食品が並び、話もなんだか噛み合いません。

さすがにこれは普通ではない……そう思い、病院に連れていくことに。その結果、「アルツハイマー型認知症」と診断されたのです。

その後、介護認定を申請すると、母は要介護1(軽度の介護が必要な状態)と認定。訪問介護サービスを受けながら独居を続けていました。

ところがある日、料理をしていることをすっかり忘れ、コンロの火をつけっぱなしに。軽いボヤ騒ぎを起こしてしまい、ケアマネジャーから「このままの独居は危険。できれば施設入所を検討したほうがいい」と伝えられました。

佐藤さんが調べたところ、地域の有料老人ホームの月額費用は20万円から30万円。母の年金は月額12万円程度で預貯金は300万円ほど。施設に入れば2年ほどで母の預貯金は無くなり、差額は家族、つまり一人息子の佐藤さんが負担する必要があります。

「もし元の会社にいたら、給与から月10万円くらいなら援助できた。でも、いまは無収入。退職金も生活費で月20万円ずつ取り崩していて、すでに500万円近く減っている。下手に取り崩せば自分の老後も危うくなる……」

家族を支える力も手放していた…早期退職を後悔

一時は母の介護のために実家に戻ることも検討した佐藤さん。しかし、家事全般を妻に任せてきたため、掃除や洗濯、料理すらままならない状況。「認知症の母の世話をしながら、自分の生活も維持するなんて現実的じゃない」と判断せざるを得ませんでした。

さらに深刻だったのは、再就職活動の現実でした。「年収を大きく下げても構わない」と希望しても、なかなか採用には至りません。前職でマネージャー職だったという経歴が、企業側に「職場に馴染めるのか」といった不安を与えるケースもあるのです。

佐藤さんは苦渋の決断で、施設ではなく「訪問介護+デイサービス」で様子を見ることに。しかし、支援は限られ、母の認知症は進行。結果的に、自分の貯金を取り崩して有料老人ホームに入所させざるを得なくなりました。

「早期退職を後悔したのはこの時です。"自分の人生を取り戻した"つもりが、"家族を支える力"まで手放していたとは……」