生活保護が受けられない?生活費の圧迫、そして妻がとった行動とは……

啓さんを迎え入れてすぐ、高橋さんは市役所に生活保護の相談をしに向かいました。ところが、窓口で告げられたのはこんな言葉でした。

「親族の扶養義務がありますので、まずはご兄弟に支援していただく必要があります」

思わず肩を落とした高橋さん。しかし、法律で定められている「親族の扶養義務」は絶対ではなく、強制力もありません。実際には、本人の資産や年収などを考慮した上で「扶養できる範囲で」とされているのが実態です。

それでも、担当者によっては「まず家族で解決を」という姿勢が強く、その最初の段階で諦めてしまうケースも少なくありません。高橋さんも同様で、「自分たち家族の中でなんとか解決しなければ」……そう思ってしまったのです。

啓さんとの生活は、想像以上に支出を増やしました。3人分の食費はもちろん、冬場の暖房費の増大、病院にも月に2~3回通っており、医療費の自己負担も地味に効いてきます。市販薬や健康食品も希望されるままに買ってあげていました。

さらに、夫婦の静かな生活に割り込む形となった啓さんとの同居に、冴子さんは強いストレスを感じるようになりました。もともと几帳面な性格だった冴子さんにとって、体調が良いときでも家の手伝いもしようとせず、だらだらとテレビを見て過ごす啓さんの姿は耐えがたかったのです。

ついに冴子さんはこう言い残し、家を出て行ってしまいました。

「私は私で静かに暮らしたい」

高橋さんは、弟を追い出すこともできず、妻と別居したことで二重の生活費がかかる状況に。老後の資産が目減りしていく不安に苛まれる日々が始まりました。