かつては、「高収入=一生安泰」という価値観が根強く存在していました。確かに高収入は暮らしに豊かさをもたらし、社会的な地位や自信も与えてくれます。しかし、企業の構造変化や終身雇用の崩壊、働き方の多様化などで私たちの働く環境はここ数年でも大きく変わりつつあります。特に50代は、会社員としてのキャリアの終盤に差し掛かりながら、まだ教育費や住宅ローンなど大きな支出を抱えるケースが多く、いざ収入が減ってしまったときにすぐに支出を落とせないリスクも潜んでいます。今回は50代半ばの会社員男性の事例を通して、高収入層が陥りやすい落とし穴と、そこから家計を守るための備えについて南真理FPが解説します。
行ってきます…年収1,500万円、外資系企業に勤める54歳会社員。高級スーツに身を包み今日も朝8時に家を出るが、妻には言えない「秘密の行き先」【FPの助言】
収入を下げる決断で見えた、新しい安心のかたちとは?
その後、木村さんは勇気を出して、ついに妻に退職の事実を打ち明けました。突然の告白に、妻も収入が途絶えたことへのショックを隠し切れませんでした。しかし、時間が経つにつれて冷静に受け止め、こう言いました。
「もっと早く話してくれたら一緒に考えられたのにね」
木村さん夫婦は、あらためて知人のファイナンシャルプランナーに相談し、家計の支出を見直すとともに、今後の生活に見合ったライフシミュレーションを受けることにしました。大学生の子どもの教育費は第一優先として確保し、それ以外の支出の見直しに着手しました。
まず、高額な住宅ローンのかかるマンションを売却し、よりコンパクトな住まいへ住み替えることで住居費を圧縮。車の売却、必要な保障に見合った保険の見直し、習い事や趣味にかかる費用も取捨選択しながら、無理のない範囲で固定費をスリム化しました。
その間も木村さんは転職活動を継続し、最終的にはこれまでの半分以下となる年収水準を受け入れて、再就職を果たしました。以前のような華やかな肩書や収入はなくなったものの、生活に見合った働き方と収入を手に入れたことで、心にもゆとりが生まれたのです。
高収入は確かに強みですが、それに過度に依存してしまうと、ひとたび収入が絶たれた際に立ち直る余地がなくなってしまいます。特に50代は、セカンドライフを見据え、働き方や暮らしを見直す大切なタイミングです。収入の高さに慢心せず、いざという時の“備え”も同時並行で進めておくことが、変化の時代をしなやかに生き抜く力になります。
私たちの暮らしを守るには、稼ぐ力だけでなく、「整える力」もまた必要です。その両方を備えてこそ、本当の安心を手に入れることができるのではないでしょうか。
南 真理
ファイナンシャル・プランナー