かつては、「高収入=一生安泰」という価値観が根強く存在していました。確かに高収入は暮らしに豊かさをもたらし、社会的な地位や自信も与えてくれます。しかし、企業の構造変化や終身雇用の崩壊、働き方の多様化などで私たちの働く環境はここ数年でも大きく変わりつつあります。特に50代は、会社員としてのキャリアの終盤に差し掛かりながら、まだ教育費や住宅ローンなど大きな支出を抱えるケースが多く、いざ収入が減ってしまったときにすぐに支出を落とせないリスクも潜んでいます。今回は50代半ばの会社員男性の事例を通して、高収入層が陥りやすい落とし穴と、そこから家計を守るための備えについて南真理FPが解説します。
行ってきます…年収1,500万円、外資系企業に勤める54歳会社員。高級スーツに身を包み今日も朝8時に家を出るが、妻には言えない「秘密の行き先」【FPの助言】
50代の転職事情の現実
2025年は、日本の上場企業では人員削減の動きが加速しており、早期退職の募集人数がリーマン・ショック直後の2009年に次ぐ水準となっています。米国でもレイオフ(一時解雇)が広がりを見せており、人工知能(AI)の進展や経済の先行き不安を背景に、構造改革に着手する企業が増えています。
では、50代の転職事情はどのような状況なのでしょうか。厚生労働省が公表する「令和5年(2023年)雇用動向調査結果の概要 」によると、令和5年(2023年)の1年間における転職入職率(正社員など常用労働者数に対する転職によって新たに入職した人の割合)は、他の年代と比べてやや低い傾向が見られました。
具体的には、
・「50~54歳」の男性は5.6%、女性は9.0%
・「55~59歳」の男性は6.6%、女性は7.6%
と、男女ともに転職入職率は比較的低めです。
さらに、一般労働者に限ると、
・「50~54歳」の男性は4.6%、女性は6.2%
・「55~59歳」の男性は5.7%、女性は4.9%
という結果になっており、パート労働者よりもさらに低い水準にとどまっています。
一方、パート労働者は、
・「50~54歳」の男性が17.8%、女性が12.6%
・「55~59歳」の男性が20.2%、女性が10.5%
と、一般労働者より高い水準となっています。
このようなデータからも、50代で転職活動を行っている人は一定数存在するものの、転職のハードルが高いことがうかがえます。その背景には、50代が管理職など責任の重いポジションを担っていることや住宅ローンや教育費など大きな支出を抱えるライフステージにあることが関係していると考えられます。
また、50代の転職における賃金の変動状況についても見てみましょう。 同調査では、転職後の賃金が「増加」「変わらない」「減少」に分類されており、50代では以下のような結果となっています。
賃金が増加した割合:
・「50~54歳」…34.6%
・「55~59歳」…27.7%
賃金が変わらなかった割合:
・「50~54歳」…31.1%
・「55~59歳」…37.5%
賃金が減少した割合:
・「50~54歳」…34.0%
・「55~59歳」…34.3%
この結果からも分かるように、50代の転職では「賃金が減少した」と回答した人が3割以上を占めており、「増加した」とする人とほぼ同水準となっています。特に55~59歳では「賃金が変わらない」「減少した」とする回答が過半数にのぼり、転職による収入改善が難しい実態がうかがえます。