父の逝去をきっかけに実家を訪れた娘は、遺品整理の最中、父の書斎で「茶色いボストンバッグ」を見つけます。何気なくそのバッグを開けたところ、なかには「まさかの遺品」が入っていたのでした……。お盆や年末年始など、家族が集まるタイミングで知っておきたい「生前対策」の重要性について、とある家族の事例をもとにみていきましょう。ファイナンシャルプランナーの山﨑裕佳子氏が解説します。※プライバシー保護のため、登場人物の情報を一部変更しています。
なにこれ…年収400万円の59歳女性、父の葬儀のため実家に帰省→父の書斎で見つけた「茶色いボストンバッグの中身」に悲鳴【CFPの助言】
橋本家の「その後」
その後、他にも父が隠しているものはないかと家中を捜索したものの、なにも見つからず。そこで、相続専門の税理士に相談することに。
すると、自宅不動産の相続税評価額は家屋が1,500万円、土地が3,000万円であることが判明。協議の結果、自宅は母の喜久枝さんが相続し、現預金5,000万円のうち1,000万円を母が、残りの4,000万円を真美子さんと弟で2,000万円ずつ相続することにしました。
なお、土地の評価額は「小規模宅地の特例」により、80%減の600万円となります。家屋、土地、現預金すべて合計すると、相続税評価額は7,100万円となりました。
そこから、4,800万円の基礎控除額と葬式費用(200万円)を控除すると、相続税の課税対象額は2,100万円。全体の相続税は265万円となる計算です。
受け取る遺産額に応じて相続税を按分しますが、母喜久枝さんには「配偶者の税額軽減」が適用されるため、相続税はかかりません。しかし、真美子さんと弟の相続税額はそれぞれ75万円です。
タンス預金を申告しなければ相続税を払うことはなかったのですが、相続税の時効は5年、悪質な場合は7年とされていることを知り、真美子さんと隆志さんは渋々相続税を納めることになりました。
タンス預金は「相続税対策」にはならない
メモが入っていた白い封筒以外には遺言書なども発見されなかったため、父のタンス預金の真意がなんであったのかは結局わからずじまいでした。しかし、どんな理由にしろ、大金をタンス預金にしておくことはさまざまなリスクをはらんでいます。
今回見てきたように、思わぬ相続税が発生するほか、火災や盗難などによる消失や紛失のリスクもあります。また、「あった、なかった」で遺産相続のトラブルの火種となることも少なくありません。
相続トラブルを回避するためには、事情があったとしても、残された人のことを考えて手元に置いておくお金は最小限とし、大きなお金はできるだけ金融機関に預けて記録を残しておくこと。そして、その事実を事前に家族に伝えておくことが大切です。
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI代表
1級ファイナンシャル・プランニング技能士/CFP認定者