長年連れ添った妻に家事も家計も任せきりにしていた夫が、妻に先立たれて直面する「お金があるのに生活できない」現実。テレビショッピングや新興宗教のために、3,000万円の資産が半減した事例から、家計管理の「丸投げリスク」と効果的な対策である家族信託について、CFPの松田聡子氏が解説します。
なんだこれ…久々の実家帰省で見つけた「高級羽毛布団セット」「見慣れぬ冊子」に息子、強烈な違和感。資産3,000万円と年金月18万円で「安泰の老後」のはずが、わずか2年で1,500万円を失った72歳父の悲劇【CFPの助言】
判断能力があるうちに対策を…「家族信託」で財産を守る現実的な選択肢
お金を管理する能力が衰えた康弘さんには早急な対策が必要です。康弘さんのような状況で検討できる選択肢として、任意後見制度、財産管理委任契約、そして家族信託などが考えられます。
これらは、康弘さんの判断能力がなくなってからでは利用できません。 この選択肢のうち、財産管理委任契約は康弘さんに判断能力がなくなると継続できなくなります。また、任意後見制度には任意後見監督人への継続的な報酬支払いが必須です。そのため、康弘さんの状況にはあまり適していません。
そこで現実的な選択肢となるのが家族信託です。家族信託とは、財産の所有者(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産を託し、受益者のために財産を管理してもらう制度です。康弘さんの場合、康弘さんが委託者兼受益者となり、雅俊さんのように信頼できる家族が受託者として財産を管理します。
雅俊さんは兵庫県在住で物理的な距離があるため、東京近郊に住む康弘さんの姪(雅俊さんのいとこ)にも受託者になってもらうことにしました。姪は長年康弘さんや雅俊さんと交流があり、定期的に康弘さんの様子を見に行くことができるためです。
このように、柔軟な契約内容を設定できる点は家族信託のメリットです。一方、デメリットとして、受託者に大きな責任が伴うこと、家族間でのトラブルの可能性があることが挙げられます。また、信託契約の締結にあたっては専門家のサポートが必要で、初期費用として30~50万円程度かかります。
家族信託は一度設定すれば、康弘さんの判断能力が低下しても継続して財産を保護できます。状況に合った契約内容にするには、まずは家族信託に強い司法書士などの専門家に相談するとよいでしょう。
康弘さんが使ってしまったお金は戻りませんが、まだ判断能力があるうちなら残った財産を守る方法はあります。家族や専門家の力を借りて、残りの人生を穏やかに過ごせるようにしましょう。
松田聡子
CFP®