長年連れ添った妻に家事も家計も任せきりにしていた夫が、妻に先立たれて直面する「お金があるのに生活できない」現実。テレビショッピングや新興宗教のために、3,000万円の資産が半減した事例から、家計管理の「丸投げリスク」と効果的な対策である家族信託について、CFPの松田聡子氏が解説します。
なんだこれ…久々の実家帰省で見つけた「高級羽毛布団セット」「見慣れぬ冊子」に息子、強烈な違和感。資産3,000万円と年金月18万円で「安泰の老後」のはずが、わずか2年で1,500万円を失った72歳父の悲劇【CFPの助言】
なぜ高齢男性は狙われるのか…「家計丸投げ世代」が抱える構造的リスク
康弘さんのケースの根本的な問題は、生活に必要なスキルを一切身につけてこなかったことにあります。
康弘さん世代(現在70代前半)は、1980年代から2000年代にかけて働き盛りだった世代です。当時は男性が外で働き、女性が家庭を守るという役割分担の世帯が多く、「家のことは妻に任せるのが当たり前」という感覚で生活してきました。
その結果、妻の死後に直面するのは「お金の管理ができない」「生活ができない」という現実です。康弘さんも通販で次々と商品を購入し、宗教団体に多額の寄付をしていましたが、家計簿などつける習慣がないため、支出の実態を把握できていませんでした。気がついたら貯金が半減していたという状況は、家計管理能力の欠如そのものです。
生活面でも自炊ができず外食費がかさみ、掃除や洗濯もできないため家事代行サービスに頼っています。その結果、家族の人数は減ったにもかかわらず、生活費はかえって増大するという皮肉な状況に陥ってしまったのです。
こうした状況に加えて、一人暮らしの孤独感や判断力の低下が重なると、悪質な業者に「カモにされる」リスクが高まります。
今後さらに康弘さんの判断力が鈍ってくると、オレオレ詐欺や投資詐欺といった犯罪被害に遭う可能性も否定できません。警察庁の統計によると、2024年における特殊詐欺の認知件数は21,063件、被害額は718億7,700万円にのぼり、いずれも2020年から増加の一途をたどっています。また、全国の消費生活センター 等に寄せられた契約当事者が65歳以上の消費生活相談件数は、2021年から増加し、2024年は約30万件に達しました。
離れて暮らす子世代の支援にも限界があります。雅俊さんのような40代は、自身の住宅ローンや教育費で家計が厳しく、仕事や育児で時間的な余裕もありません。親の状況が気になっていても、物理的・時間的な制約から日常的な見守りは困難なのが現実です。
「家計管理丸投げ」のツケは、想像以上に深刻な形で現れるのです。