茂さんが“われに返った”きっかけ

夫婦は悩んだ末、思い切って近所にあるファイナンシャル・プランナー(CFP)の事務所を訪ねました。もちろん、父・茂さんも一緒です。

事情を丁寧に聞き取ったCFPは、家計の状況や生活費の内訳を1つひとつ確認したうえで、こう助言します。

「この状態があと数年続き、さらにお父さまの介護が必要になった場合、資産の大幅な目減りは避けられません。お父さまの老後はなんとかなるかもしれませんが、その後に続くお2人の老後資金が足りなくなるリスクが高いです」

そのうえで、FPは徳永さん夫婦が事前にまとめておいた「毎月の食費の内訳」を、見やすく整理して茂さんに示しました。グラフや金額がひと目でわかる資料を見て、茂さんは目を丸くします。

「こんなに使っていたのか……すまない。迷惑をかけた」

自身のこだわりが家計に大きな影響を与えていたことに気づき、茂さんは素直に謝罪し、肩を落としました。

執着の裏にあった「寂しさ」

あとでわかったことですが、父は夫婦と暮らすようになり、仁美さんがつくる料理が慣れ親しんだ妻の味と異なることに寂しさがあったようです。

「ステーキ」と急に言い出したのは、本の影響もありますが、若いときに妻と食べた「思い出の味」でした。

その後、夫婦は茂さんと今後の食生活について話し合い、ステーキは週に1度の楽しみにとっておくことに。その代わり、茂さんが慣れ親しんだ亡き妻のレシピを仁美さんが研究し、なるべく寂しい思いをさせないよう配慮することにしました。

その結果、食費は大幅に抑えられ、徳永家の家計は黒字へと転じます。ひと安心した健司さんは、将来の備えについても前向きに考えられるようになりました。

一方の茂さんも、年に1度の健康診断を欠かさず、毎日近所を散歩するなど、改めて自身の健康と向き合うように。

こうして、再び穏やかな家族3人の暮らしへと戻っていったのでした。

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表