同居によって懐と心にゆとりが生まれた徳永夫婦

リフォームを終えたばかりの明るいリビングで朝食を囲む3人。妻を亡くしてからどこか寂しげだった茂さんの顔に、久しぶりにやわらかな笑顔が浮かんでいました。

「これで、また家族一緒に暮らせるんだな」

そう言って笑う父の姿に、健司さんはホッと胸をなで下ろしました。

月々の収入源は、夫婦の年金月26万円と、父の年金月11万円を合わせた37万円。経済的にはこれまで以上に余裕が生まれ、気持ちにもゆとりができます。

父と一緒に暮らすようになってから、仁美さんは毎日の食事作りにいっそう気を配るようになりました。栄養バランスはもちろん、味付けにも工夫を凝らし、父が楽しく食事できるよう心を込めて食卓を整えます。

「ごちそうさま。今日も美味しかった。ありがとう」

感謝の気持ちを素直に言葉にし、笑顔で箸を置く父。そんなあたたかな食卓を横目に、健司さんは、ふと心のなかで願います。

「この時間が、少しでも長く続きますように」

朝ごはんはステーキにしてくれ…父が放った「突飛なひと言」

しかし、そんな穏やかな暮らしも長くは続きませんでした。

同居生活を始めて1ヵ月ほど経ったある朝、茂さんが次のように言います。

「これからは朝ごはんをステーキにしてくれ」

突飛なひと言に、健司さんも仁美さんも思わず顔を見合わせました。理由を尋ねると、父は本を差し出しながらこう言います。

「知らんのか? 長生きには肉だ。ここに書いてある」

最初はなにかの冗談かと思い、とりあえず冷蔵庫にあった肉を焼いて出すことにした仁美さん。しかし、しだいに父の要求はエスカレートしていきます。

「肉がまずい。国産にしてくれ」
「こんな薄い肉じゃダメだ。ステーキにしてくれと言ったろう」
「ブランド牛しか食べたくない。いい脂は健康にいいんだ」

そして父は、1kg3万円もする松阪牛や神戸牛を自ら買ってきては、必ず毎朝100g食べるようになりました。

「お父さん、急にどうしたのかしら」
「本当になあ。まあ、すぐに飽きるだろう」

2人はこんな会話を交わしていましたが、その期待は裏切られます。