相続争いは、決して富裕層だけの話ではありません。資産が少ないからこそ、「わけ方」が問題となり、感情のもつれも大きくなりがちです。本記事では、母の相続をきっかけとした3人兄弟の葛藤から、相続トラブルへの備え方についてFPオフィスツクル代表・内田 英子氏が解説します。
あまりにも不自然…年金暮らしの90歳母が遺した「4冊の貯金通帳」〈残高計170万円〉に3兄弟真ん中っ子・63歳次男が覚えた「強烈な違和感」の真相【FPの助言】
“犯人”の悲しい告白
弟がかぶりを振り、兄はごめん、と謝りました。もともと300万円ほどあった口座残高は、生活費に困った兄が住宅ローンの返済や生活費に使ってしまったことがわかりました。
実は、持病を持つ兄のBさんは、そう長くは生きられないだろうと高を括り、60歳で定年退職したあと、年金を繰上げて受け取っていました。しかし繰上げにより、減った年金では退職後の生活が厳しく、ストレスが溜まりついやってしまった、とBさんは告白します。
葬儀費用の清算を終えれば、預金はほとんど残りそうにありません。自宅も相続財産でしたが、すぐに売れるものではなく、売り手もつきにくいであろうことが予想されました。結局その日は話し合いが終わらず3人は解散しましたが、腹をたてた弟が後日弁護士を立て、兄に返還を求めました。
Aさんは、亡き母の想いとはかけ離れているだろう現実に頭を抱えました。
相続トラブルに要注意な家庭の共通点
このケースで表面化したのは、主に以下の3つの問題です。
1.「使い込み」は起こり得る
万が一のことを考えると、流動性の高い現預金を多く持つことは重要な家計防衛策ですが、「使い込み」が容易に起こりやすくなります。特に年を重ね、入院している期間中など、本人が確認できない状況では、家族による「勝手な引き出し」が行われやすくなります。
2.生前の「口約束」は法的効力を持たない
「保険金はあなたにあげる」という母の言葉も、遺言として文書に残されていなければ法的効力はありません。ほかの相続人が同意しない限り、すべての遺産は原則として法定相続分に従って分割されます。
3.住む人のいない不動産は「負動産」になりやすい
実家などの不動産が遺産の多くを占めている場合、住む予定のない相続人にとっては「管理・処分に困るもの」になりかねません。
買い手もつかず、固定資産税や火災保険料などの維持費だけがかかる「負動産」となるケースも散見されます。評価額が高くても、現金化が難しい不動産は、分割協議を難航させる要因ともなります。