ここ数年の物価上昇は、私たちの日々の暮らしに大きな影響を与えています。食料品や光熱費、日用品等の生活に欠かせない支出の多くが上昇し、家計のやりくりは年々厳しくなっています。特に、固定収入で暮らす年金受給者にとっては、これらの物価上昇は、生活の質そのものに直結する深刻な問題です。今回は、長男一家と同居しながら生活費の一部を年金で支える70代女性のケースを通して、物価高騰が年金生活に与える影響と家族との向き合い方、そしてこれからの暮らしを守るヒントについて、南真理FPが解説します。
この生活、どこまで続けられるのだろうか…「年金13万円」が家族4人の命綱。息子一家と暮らす75歳母、「値上がりに次ぐ値上がり」で切迫する暮らしに沈鬱の日々【FPの助言】
支える側に立たされた親世代の苦悩と家族との向き合い方
本来、年金は高齢者が自立した老後生活を送るための「生活の柱」として位置づけられるべきものです。しかし、現役世代である子どもや孫と同居しながら、生活の一部または多くを年金で支えているケースでは、「自分たちの生活は自分たちで守る」という基本が揺らぎ、高齢者の年金に頼る構図が生まれてしまいます。
年金が生活費の中心を担ってしまうことで、老後資金の取り崩しが続き、必要となる医療や介護への備えまで手が回らなくなる恐れがあります。
さらに深刻なのは、「親子共倒れ」のリスクがあることです。もし鈴子さんに急な病気や介護が必要になる事態が起これば、長男一家の生活そのものが立ち行かなくなる可能性があります。親が支え続けている限り、子世帯の経済的自立は遠のき、家計全体が不安定な構造になりかねません。
こうした状況を打開する第一歩は、「家族でお金の話をすること」です。家計の話題は、家族であっても気まずさを伴いやすいものですが、現状の収入と支出を「見える化」し、誰がどこまでを負担しているのかを共有することが大切です。具体的な数字をもとに話すことで、感情的にならず、冷静に向き合うことができます。
次に、有効なのが第三者のサポートを取り入れることです。各自治体では、無料の相談窓口が設けられていることがあります。 自分たちで抱え込まず、第三者である専門家の視点を取り入れることで、新たな選択肢や支援制度を知るきっかけにもなります。
そして、啓介さん夫婦には、鈴子さんの年金に頼る形を続けるのではなく、少しずつでも経済的に自立していけるよう促していくことが大切です。そのためには、家計を見直したり、将来を見据えた生活設計を考えたりする機会を家族で共有することが重要です。
もし、自分たちで家計の見直しをすることが困難な場合には、ファイナンシャルプランナーなど専門家の力を借りることで、より具体的かつ現実的な人生設計のサポートを受けることができます。家庭内での支援が「無理のない支え合い」へと転換していくためには、親子それぞれの立場を尊重しつつ、現実的な行動を積み重ねていくことが必要です。