定年退職から年金受給開始までの数年間は、どう過ごすかによってその後数十年の老後生活を大きく左右します。トルコリラに投資して大失敗した男性が「それでも持ち続ける」と決意した理由とは……。元会社員・清水さん(仮名・60歳)の事例をみていきましょう。神戸・辻本FP合同会社代表の辻本剛士CFPが解説します。※プライバシー配慮のため登場人物の情報は一部変更しています。
夢なら覚めてくれ…退職金2,000万円を〈トルコリラ〉に託した60歳元サラリーマン、半年後に1,000万円を失い絶望→それでも「持ち続ける」と決めたワケ【FPの助言】
“ビギナーズラック”を謳歌する清水さんに突如訪れた悲劇
ところが、ある日のこと。1リラ=13円台で安定していたはずの通貨が、突如として10円台前半にまで下落します。
「いやいや、大丈夫。為替なんて一時的にこれぐらい上下するもんだって言ってたし」
清水さんは自分にそう言い聞かせ、保有を続ける道を選びました。
しかしリラはその後も下落を続け、夏には8円台、秋には7円台をつけます。資産評価額は2,000万円から1,060万円へと激減し、スワップポイントを合わせても実質1,200万円ほどにまで目減りしてしまいました。
「まさか、こんなことになるなんて……」
画面に映る数字を見つめながら、清水さんはただ呆然とするしかありませんでした。
トルコリラ、メキシコペソ…「高金利通貨」の光と影
FX(外国為替証拠金取引)では、米ドルやユーロのほか、トルコリラ(TRY)や・南アフリカランド(ZAR)、メキシコペソ(MXN)など「高金利通貨」と呼ばれる国の通貨も取引対象として選ぶことができます。
高金利通貨とは、政策金利が非常に高く設定されている新興国通貨のことです。
これらの通貨は、金利が年数%~十数%に設定されていることも多く、保有しているだけで高い利息を得られる点が魅力とされています。
清水さんが犯した2つの致命的なミス
今回、清水さんが資金の大半を失う事態となった要因は、主に以下の2つです。
・分散投資ができていなかった
・一括で投資してしまった
トルコリラは、たしかに高い利息を得られます。一方、価格の変動幅が非常に大きく、リスクも高い通貨です。
直近10年間のトルコリラの推移をみると、1リラ=50円台だった10年前から2025年時点では3円台まで下落しています。
このような長期的な下落傾向がある通貨に一括で投資してしまうのは、極めてリスクの高い行為でしょう。
仮に清水さんが積立方式で少しずつ投資していれば、取得単価が平均化され、ここまで大きな損失を出すことはなかったかもしれません。
また、投資経験が浅いほど「高金利」「毎日もらえる利息」といった魅力的な言葉に目を奪われがちです。しかし、高利回りの裏にはその分価格下落や信用リスクといった影の部分が必ず存在します。
そのため、高金利通貨への投資を始める場合は資産の一部だけにしておく、または失ってもいい資金で運用するといった慎重な姿勢が重要です。
