「資金があれば老後は安泰だ」そう信じていた65歳元会社員の青木さん(仮名)。貯蓄も年金も十分にあり、住宅ローンも完済。誰もが羨む理想的な老後ですが、退職で変化した生活を持て余し、引きこもった青木さんは「ある疾患」と診断されてしまいました。今回は青木さんの事例を元に、資金以外にも必要な「老後の準備」について、CFP®の伊藤寛子氏が解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
年を取るのがこんなに辛いとは…貯蓄3,500万円の65歳・元会社員、天井をぼんやり見つめポツリ。お金の不安がない〈理想の老後生活〉のはずが「じっと家に引きこもる毎日」【CFPの助言】
老後資金準備のためだけではないライフプランニングを
青木さんは老後資金はしっかり準備していましたが、「退職後に自分はなにがしたいのかは、退職してからゆっくり考えればいい」となにも準備をしてきませんでした。
そのため、急な変化に順応しきれず、孤立感や無気力感に直面することになってしまいました。そんな青木さんを救ったのは、たまたま市の広報で目にした「シニア向けスポーツ教室」の案内でした。
最初は妻に背中を押される形で参加してみました。慣れない雰囲気に緊張しながらも、同世代と身体を動かすことで、少しずつ心が軽くなっていきました。そこから、青木さんは毎日決まった時間に散歩に出たり、月1回の地域ボランティア活動に参加したり、外へ出かける習慣を作っていきました。
昔趣味だった釣りも再開し、少しずつ行動を増やしていきました。すぐにすべてが好転するわけではありませんが、少しずつ社会と関わること、自分の役割を持つこと、そして医師による適切な治療を受けることで、徐々にうつの症状は改善されていったといいます。
定年後の生活では、気分の落ち込みや生活リズムの乱れといった変化が生じやすくなります。自分らしい時間を楽しむためにも、早めに準備を始めておくことが大切です。老後資金準備のためだけでなく、生きがいや社会とのつながりを持つためのライフプランを、ぜひ定年前から描いてみてください。
伊藤 寛子
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)