A夫妻の「その後」

ひととおりの説明を受けたAさんは、財産分与をした場合の具体的な金額が可視化されたことで「俺は離婚して、生涯このアパートで暮らすんだ」と決心しました。

そして娘のCさんにその旨を報告すると、Cさんは実家に遊びに行ったついでに母へAさんの現状を伝えました。

Bさん「あの人の調子はどう?」

Cさん「なんかねえ、『Bが言うならしょうがない! 俺も従うしかない。俺は一生このボロアパートで生きていく!』って意地張ってたよ。『それにしても、コンビニのおにぎりっていうのはこんなに高かったんだな』だって。お母さんのごはん食べてたから、世間知らずなのよね」

Bさん「そう……」

Cさんはそのとき、Bさんが前に見たときの晴れやかな表情ではなく、浮かない表情に変わっているのを見逃しませんでした。

Cさん「ねぇ、やっぱりパパと離婚するの?」

Bさん「……」

それから1ヵ月ほど経ったある日、Aさんから筆者に連絡が入りました。

「その節はご心配をおかけしました。あのあとお互い考え直しまして、いまは自宅に戻り、2人で暮らしています。まるでなにごともなかったみたいですが、私はまた妻にとんでもないことを言われるんじゃないかと、内心ビクビクしています(笑)」

どうやら夫婦は、数ヵ月の“冷却期間”を経て、元のさやに納まったようです。

「熟年離婚」は増加傾向も、経済的な影響大…決断は慎重に

今回紹介したA夫妻のように、同居期間が20年以上の夫婦の離婚(熟年離婚)は増加傾向にあります。

実際、厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況人口動態統計月報(概数)」によると、令和5年度の熟年離婚は3万9,812組と、前年度と比べて2.1%(821組)増加。

そのなかでも特に、同居期間が「30~35年未満」の離婚は5,521組(前年度比6.3%増)、「35年以上」の離婚は6,826組(前年度比4.0%増)と、定年まで長いあいだ人生をともにした夫婦の離婚が増加していることがわかります。

A夫妻の家計はなんの問題もありませんが、ひとたび離婚をすればAさんの生活が苦しくなるだけではなく、自宅を売却した場合Bさんも住まい探しを余儀なくされ、Aさんと同様アパート生活になりかねませんでした。

老後の生活は、50代から考えはじめても決して早すぎることはありません。熟年離婚を検討する場合、経済的な側面からも綿密な戦略を練り、慎重に決断することが重要です。

牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員