定年まで働いて退職金を受け取り、その後は持ち家で年金を受け取りながら家族と穏やかに暮らす……こんな“普通の”未来を手に入れられる日本人は、実は“ほんの一握り”かもしれません……。元運送会社勤務のAさん(65歳)のエピソードをもとに、老後起こり得る“まさか”への対処法をみていきましょう。
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A夫妻が離婚すると財産はどうなる?
Aさんから一連の話を聞いた筆者は、まずAさんがもっとも心配している「財産分与」について、次のように説明しました。
まず、財産分与を行う際には、共有の財産額を確認してリストを作成します。
このとき、夫婦が「婚姻期間中」に築いた財産は、たとえどちらの名義であっても「共有財産」として財産分与の対象となります。一方で、結婚前に取得した有価証券や親族から相続や贈与で得た不動産、預貯金といった「特有財産」は分与の対象から外れます。
財産分与の対象となる資産は主に次のとおりです。
リストができたら、このリストに基づき、弁護士などの専門家の力を借りながら財産の分配方法や割合(基本的には折半)を決め、合意した内容の「離婚協議書」を作成します。
夫婦だけで合意にいたらない場合は家庭裁判所に調停を申し立てます。それでも話がまとまらず調停不成立となれば、裁判となる可能性もあります。
なお、夫婦で合意のうえ財産分与自体を行わないという選択肢も可能です。
年金はどうなる?
老齢年金は、それぞれの受給額がそのまま反映されるのではなく「年金分割」で個々人の年金記録を付け替え、実際の年金受給額に反映されます。
この年金分割には、「合意分割※1」と「三号分割※2」の2種類があり、いずれも婚姻中の「厚生年金保険料の納付実績」をもとに分割が行われ、老齢基礎年金はこの制度の対象外です。
なお、具体的な金額は年金事務所に「年金分割のための情報通知書」を請求すれば知ることができます。
※1 合意分割……離婚をしたときに、当事者の合意または裁判所の決定により、婚姻中の厚生年金保険料納付記録の分割を行うこと。
※2 3号分割……離婚をしたときに、婚姻中(2008 年4月以後)の“第3号被保険者期間”の厚生年金保険料納付記録の分割を行うこと。
※1・※2 ともに詳細は日本年金機構HPを参照のこと。
厚生労働省「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概要」によると、令和5(2023)年度の離婚件数は18万4,223組で、そのうち合意分割をしたのは2万1,625組、3号分割のみは1万1,017組、総数は3万2,642組でした。
また同概要で、令和5年度の「合意分割」と「3号分割のみ」の平均年金月額の推移は[図表]のようになっています。
A夫妻の年金受給額月約23万円の内訳は、Aさんの老齢厚生年金16万円と、厚生年金の加入歴のない妻Bさんの老齢基礎年金7万円です。
したがって、年金分割をして妻Bさんの年金記録に付け替わる金額は「月3万~4万円程度」と推測できます。

