配偶者や親など、家計の柱となる家族を亡くした場合に受給することのできる遺族年金。しかし、遺族年金を受け取った人のなかにはその金額に驚く人も少なくありません。株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の五十嵐義典CFPが、具体的な事例をもとに「遺族年金制度」のキホンと注意すべきポイントについて解説します。
遺族年金のこと、なにも知りませんでした…年収900万円・59歳夫が定年直前に急逝→遺産3,000万円を受け取った56歳妻が静かに「老後破産」を覚悟したワケ【CFPの助言】
遺族年金が少ないのはこの国のせい…追い込まれた様子の理恵さん
FPのもとを訪れた理恵さんは、追い込まれた様子で次のように訴えます。
「遺族年金のこと、なにも知りませんでした。こんなに少ないなんて……。決して夫が悪いわけじゃない、それはわかっています。遺された者を救済する気がないこの国が悪いんだ……」
この理恵さんの言葉にFPは少しだけ困惑した表情を見せましたが、遺族年金のしくみについて下記のように説明したあと、いくつか家計改善策を提案しました。
遺族年金の平均額は…
公的年金制度の「遺族年金」には、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります。ただし、会社員の夫が死亡して、子どもがすでに18歳(年度末)を過ぎている場合、妻には遺族厚生年金が支給され、遺族基礎年金は支給されません。
遺族厚生年金は、亡くなった人の厚生年金加入記録をもとに計算されます。支給額は原則として、故人の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3相当額です。
なお、夫の死亡当時、妻が40歳以上65歳未満であれば、遺族厚生年金に中高齢寡婦加算が加算される場合もあります。
統計上、遺族厚生年金と中高齢寡婦加算の合計で受給する場合、遺族年金の平均額は年額129.6万円※ほど。つまり、月額では10万円強が平均です。
※ 「年金制度基礎調査(遺族年金受給者実態調査)令和3年」より。「厚生年金のみ・中高齢寡婦加算あり・基礎年金歴なし(妻)」の場合
理恵さんの遺族年金は平均よりも多いが…
宏さんは大学卒業以来、35年以上会社員を務めていました。そのため、夫を亡くした理恵さんには遺族厚生年金が支給されます。一方、息子である慶太さんは18歳を超えていることから、遺族基礎年金は受給対象外です。
死亡当時の厚生年金加入記録から、老齢厚生年金(報酬比例部分)は128万円と計算されました。したがって、その4分の3である96万円が理恵さんへの遺族厚生年金となります。
理恵さんは現在56歳と、40歳以上65歳未満であることから、これに「中高齢寡婦加算」が約62万円加算され、合計で年額158万円。月額に直すと、13万円程度になります。
先述のとおり、平均額は月額10万円強ですから、理恵さんが受け取れる額は平均以上です。
これを知った理恵さんは「そうなんだ、これでもまだ私は多いほうなんですね……」とこぼしました。
しかし、遺族年金だけでは生活が十分でないことも事実です。そのため遺族年金以外の収入や蓄え、今後の支出の抑制について考える必要があります。