試算の結果、直さんの相続税額は「5,000万円以上」

夫婦から一連の経緯について説明を受けたFPは、相続税額の計算方法について次のように説明を行いました。

「まずは、直さんが相続や遺贈によって取得した財産がいくらあるのか計算する必要があるでしょう。この際、現預金はそのままの額面が相続税評価額となりますが、不動産は別途定められている評価方法にしたがって相続税評価額を算出することになります。

遺産総額が判明したら、そこから葬式費用や被相続人の債務、非課税財産を差し引きます。最後に相続税の基礎控除額(600万円×法定相続人の数+3,000万円)を控除します。

このように計算したあと、残額があった場合、この残額に相続税が課されます。なお、直さんが法定相続人でない場合は、相続税は2割増になります」

これを踏まえて直さんの相続税を計算してみましょう。

まず、収益不動産の相続税評価額を調べたところ、1.2億円であることがわかりました。現預金と合わせると、相続税評価額は2.2億円になります。

ここから葬儀費用と基礎控除額(3,600万円)を控除します。

また、叔父の法定相続人は姉(田中さんにとっての実母)である芳江さんのみです。田中さんは叔父の法定相続人ではなく、今回田中さんが多額の遺産を相続することになったのは叔父の「遺言書」があったからです。

そのため相続税は2割増に。この結果、田中さんには5,000万円以上の相続税がかかる見込みであることがわかりました

これを聞いた田中さんは血の気を失い、脂汗をかき始めました。

すでに、現預金の大半はマンションの購入費用にあてています。相続税を支払うためには、不動産を売却するしかなさそうです。きらびやかな生活を夢見て膨らんだ“期待の風船”は、途端に萎んでいきました。

なんであんたひとりだけ!?…実姉との「泥沼争族」が勃発

天国から地獄へ突き落とされたような気持ちの田中さんに、さらなる追い打ちをかける出来事が起こります。

自宅で夕食をとっているとけたたましくインターホンが鳴り、田中さんの実姉、京子さん(仮名・58歳)が怒鳴りこんできました。

「ねえ! 遺産の話なんだけど。なんであんたが全部相続することになるわけ? 母さんが相続するならまだしも、あんたがもらえるなら、姪の私にも同じようにもらう権利があるはずだよね」

「そんなこと言われてもな……。遺言書に『全財産を俺に譲る』と書いてあるんだから、しょうがないだろ」

「は? そんな紙一枚で決まってたまるもんですか! 訴えてやる!」

どうしても納得できない様子の京子さんは、その後本当に裁判を起こし「弟が叔父に取り入って書かせた遺言書は無効だ」と主張。

しかし、裁判所では、この主張に正当性がないと判断され、遺言書の有効性が認められました。