生涯未婚率が上がり、子どもを持たない選択肢をとる人も増えています。そのため、自分の財産を甥や姪に譲ろうと考えている方もいらっしゃるでしょう。しかし、事前の対策がないと相続人が思いもよらない苦労を背負う可能性があると、FPである山﨑裕佳子氏はいいます。56歳の田中さん(仮名)の事例をもとに、相続における注意点と生前対策についてみていきましょう。
月収45万円・56歳“普通のサラリーマン”に降って湧いた「3億円」…まさかの幸運に有頂天も一転、家族崩壊+老後破産危機にむせび泣き「心の底から悔やんでいます」【FPの助言】
“普通のサラリーマン”がある日突然“億万長者”に
現在56歳の田中直さん(仮名)は、中堅メーカーに勤めるサラリーマンです。月収は45万円ほどで、都内の賃貸マンションに妻と大学生の娘と3人で暮らしています。
勤務先には再雇用制度があり、定年は60歳であるものの、希望すれば65歳まで働くことができます。しかし、「趣味のバイクで、日本中をあちこち回ってみたい」と密かな夢があった直さんは、できれば60歳で退職したいと考えていました。
そんな矢先、直さんのもとに「叔父が他界した」と連絡が入りました。叔父は生涯独身を通し、公正証書遺言に「自分の全財産は甥である直に相続させる」と残してあるというのです。
直さんは業務には真面目である反面、お金には無頓着な一面を持っていました。家計管理は全面的に妻が担当しており、直さんは毎月小遣いの範囲で趣味を楽しんでいました。
そんな直さんに突然、推定3億円もの大金が舞い込んできたのです。
有頂天になった直さんは「こんなにお金が入ったんだから、もうなにをやっても構わないだろう」と、60歳を待たずに56歳での早期退職を決断。降って湧いたような奇跡に妻も冷静さを失ってしまい、直さんの退職を止めることはしませんでした。
そして、退職と同時に勢いで“終の棲家”として9,000万円の都内分譲マンションの購入を決断。3億円の遺産を手にした直さんにはなんの問題もありません。
「これからは趣味を謳歌しながら、悠々自適な暮らしができる……!」
理想の老後が送れることを、このときは信じて疑う余地もありませんでした。ところが……。
急転直下…「多額の相続税」に怯える日々へ
その後、叔父の遺産を紐解いてみると、遺産のうち大半は収益用不動産であることが判明。これらはバブル期に投資用として購入したもので、ローンは完済しており、叔父は家賃収入を老後の生活資金の一部としていました。
当時の購入価格は2億円だったそうですが、現在の市場価値は不明。すぐに現金化できる資産は、定期預金の1億円だけです。
妻「ねえ、3億円も相続したらけっこう相続税がかかるんじゃない?」
直「えっ? ……そうなのか? でも、実際に相続税を払う人はごくわずかだと聞いたことがあるぞ」
妻「そうかな……。不安だから、ちゃんと調べてみたほうがいいんじゃない?」
とはいえ、自分が大金を持っていることを周囲に知られたくない……そう考えた直さんは、知り合いのファイナンシャルプランナー(FP)に聞いてみることにしました。