ここ数年の物価高は、あらゆる場面で暮らしに影響を与えています。食費や日用品費といった日々の生活だけでなく、旅行などの“たまの贅沢”も例外ではありません。68歳の桐谷夫婦(仮名)は、この物価高を理由に旅行を断念。しかし、その後夫が一念発起し、「まさかの決断」をするのでした……。ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が事例をもとに、「老後の住まい」について解説します。※プライバシー配慮のため登場人物の情報は一部変更しています。
GWで浮かれる世間に腹が立つ…年金月17万円の68歳男性、旅費高騰で家族旅行を断念→テレビ相手に舌打ちの毎日。絶望の末「まさかの決断」に妻パニックのワケ【CFPが解説】
300万円で家を買い「自給自足」の暮らしへ…大丈夫?
なんとか妻の同意を得た桐原明さんは、すぐに移住の準備に取りかかります。
ネットと電話で物件を探し、見つけたのは長野県郊外にある築40年の平屋です。スーパーまで車で10分、病院も近く、老後の暮らしには十分な環境でした。
物件価格は300万円。貯金から支払い、リフォーム費用100万円は移住補助金と共済組合の貸付(100万円・金利1.5%)を活用しました。
工事が完了すると、いよいよ新しい生活がスタート。はじめのうちは勝手の違いに戸惑うことも多く不安な毎日でしたが、やがて明さんは以前からの夢であった「自給自足生活」にチャレンジすることにしました。
家の裏にあった雑草だらけの小さな畑を地元の人に教わりながら少しずつ整え、トマトやナス、じゃがいもなどを育てます。
「どうせ趣味で終わるでしょ」と横目で見ていた仁美さんも、新鮮な朝採れ野菜を口にして感激。
「買うよりずっと美味しいわね!」
しだいに夫の畑作業を手伝うようになりました。
さらに、余った野菜を直売所に出してみたところ、近所で明さんの野菜の美味しさが評判に。月に3万円ほど売り上げるようになりました。
「この歳になって、年金以外に収入があるなんてな……人生、まだまだ捨てたもんじゃない」
そうつぶやいた明さんの顔には、都会では見せたことのない穏やかな表情が浮かんでいました。
メディアで騒がれているだけでは?地方移住の実態
国土交通省の調査によると、20代ではおよそ45%の人が地方移住に関心を持っているとされ、全年齢平均を上回る結果となっています。また若年層だけでなく、老後の生活を見据えた中高年世代の関心も根強く、定年後に田舎暮らしを希望する人も少なくありません。
しかし、地方移住は生活環境や就労条件が大きく変わるため「こんなはずではなかった」と後悔する人もいます。事前にメリット・デメリットの両面を正しく理解しておくことが重要です。
また、総務省が公表したデータによると、地方に移住した60歳以上の人の多くが「経済面において良い方向に感じている(経済面においていい影響があった)」と回答しています。
高齢者においては年金収入が確保されていることや、現役時代にある程度の資産形成を終えている人が多いため、生活に大きな支障をきたしていないのかもしれません。
地方移住は「自然との共生」や「静かな暮らし」を得るだけでなく、生活費を見直す現実的な選択肢にもなります。ただし、理想だけで決めず、地域の特性や生活環境をよく調べたうえで判断することが大切です。


