68歳男性、テレビに向かって思わず舌打ち

横浜市に住む68歳の元会社員・桐原明さん(仮名)は、GWを目前に控えたある日、テレビに映る「楽しげな人々」を見て、思わず舌打ちしてしまいました。

「チッ……世の中は浮かれすぎじゃないか? 誰もが旅行に行けるわけじゃないんだぞ」

明さんは、同い年の妻・仁美さんと2人で暮らしています。かつては食品卸売会社で営業職として働き、全国各地を飛び回っていました。

定年退職後、現在は年金暮らし。受給額は月およそ17万円です。特別贅沢はできませんが、これまで積み立ててきた約900万円の貯金もあり、老後に対する不安はありませんでした。

物価高の影響で旅行を断念するハメに

そんな明さんの楽しみは、年に1度の夫婦旅行。普段堅実な生活をしている2人は、1年に1度、夫婦で「ちょっとだけ贅沢」をするのが恒例になっていたのです。

これまでにも京都や金沢、伊豆など、全国各地の名所を2人で巡ってきました。今年の行き先は5年前に1度行った長野県の軽井沢です。

数ヵ月前から計画を立て、パンフレットを見ながら夫婦でワクワクしていたのですが……その夢は、あっけなく砕かれることになります。

「ねえちょっと、前行ったときの倍近くするじゃない」

夫婦で訪れた旅行代理店のカウンターで、仁美さんは言いました。

提示された見積もりを見ると、交通費、宿泊費、食費にいたるまで、なにからなにまで値上がりしています。旅行費用は5年前の1.5倍以上に膨れ上がっていました。

「ちょっと考えさせてください」

そう言って帰宅した2人。話し合った末、旅行を断念することに。

「今回は、仕方がないわね」

仁美さんはそうつぶやきましたが、明さんは納得できない様子。腕を組んだまま、テレビに映る観光地の映像を睨みつけていました。

「なんで庶民ばっかりが割を食うんだよ。ふざけんな、金持ちばっかり楽しみやがって……」

自分たちはなにひとつ贅沢をしていないのに、年に1度のささやかな楽しみすら奪われる。そんな不条理に、苛立ちを隠せない日々が続いていました。