夫婦で旅行に行きたい、趣味に没頭したい、習い事を始めたい……定年後にやりたいことは人それぞれですが、夫と妻が同じ気持ちであるとは限らないようで……。ゆめプランニング代表の大竹麻佐子CFPが、夫が定年を迎えた夫婦の事例をもとに、老後の資金形成における注意点について解説します。
妻よ、ありがとう…定年翌日、万感の思いで感謝を伝える65歳“不器用”な夫。退職金2,000万円で「なにがほしい?」→61歳妻からの〈まさかの返答〉に悲鳴【FPが警告】
美佐子さんの離婚の「決め手」と健一さんの「言い分」
しかし、健一さんは妻に1度も「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えたことがありませんでした。家計の管理や子育て、自治体とのやり取りなど、美佐子さんになにを聞かれても「任せる」で済ませていたのです。美佐子さんは夫のこうした態度が許せませんでした。
健一さんの言い分としては、長年の感謝の気持ちがあるからこそ「妻の望みを叶えてやりたい」と定年のタイミングで声をかけたとのこと。
しかし、たとえ長年連れ添った夫婦であっても、信頼関係は「コミュニケーション」によって生まれます。お互いの信頼関係がなければ、当然思いは伝わりません。
美佐子さんにとって、感謝もなく真摯に向き合ってくれない夫との信頼関係は、ずいぶん前から崩れていたのでした。
離婚を決意していた妻の“事前準備”
実は、美佐子さんは数ヵ月前から知り合いのファイナンシャルプランナー(FP)に相談していました。
「もう限界なの。子どもも大学を卒業して子育てから手が離れたし、自由になりたくて。いまはパートで月10万円くらいの収入だけれど、もし離婚したらもっと働いて自分の生活費は自分で賄うつもり。だけど、もうすぐ旦那に2,000万円の退職金が入るのよね……できれば退職金の半分は欲しいんだけれど、可能なのかな?」
離婚にあたっては、それまで夫婦が協力して築いた財産を分け合う「財産分与」が適用されます。そのため、退職金だけでなく、結婚後に購入した持ち家や金融資産、今後受け取る年金受給権の分割が可能です。
ただし、財産分与の対象となるのは、「婚姻期間中」に相当する部分のみ。したがって、退職金について本来認められるのは、勤務期間43年に相当する2,000万円の半分ではなく、婚姻期間30年分(約7割)相当の半分である約700万円です。
上記のようにFPが説明すると、美佐子さんは「なるほど……そうなんだ。そこらへんの詳しい話は弁護士に相談してみようかな、ありがとう」と事務所をあとにしました。
そして、夫に離婚を宣言した美佐子さん。美佐子さんの固い決意に、健一さんは渋々同意。その後は弁護士を交えつつ、財産分与について話し合いました。
その結果、自宅については、健一さんの親から引き継いだものであることから、健一さんが住み続けることに。また、年金分割は請求しないことにしました。
しかし、退職金のほか、これまで夫婦で貯めてきた金融資産とあわせて計算した結果、2,000万円を美佐子さんが受け取ることで合意に至りました。