実はAさん、繰り下げていなくても「83歳で破産」していた

AさんはFPの助言どおり、69歳から年金受給をはじめました。支出を見直したところ、現役時代の取引銀行の担当者にお願いされて入ったまま忘れていた保険をはじめ、月4万円ほど節約できそうです。これにより生活費は月21万円ほどに収められます。

可能であれば、さらに3万円ほど生活費を減らせれば5年後には貯蓄が約500万円まで増えるため、先を案じることなく生活できるでしょう。

机上の計算ではありますが、Aさんがもし65歳から月17万円の年金を受給していたらどうなっていたでしょうか。生活水準を落とさずに月25万円の生活を続けた場合、70歳までの貯蓄の取り崩し額は約384万円で、貯蓄残高は1,616万円となります(銀行預金の利息は考慮せず)。しかし、その後も生活費が月25万円のままであれば、Aさんが83歳になるころには貯金が枯渇してしまいます。

「退職した時点では貯蓄が2,000万円もあり、月25万円で5年間生活しても500万円残ると安易に考えていました。しかし、体調を崩したりリフォームが必要になったりと予想外のことも多く、むしろ退職してからのほうがお金の減りが早かったように感じます。どうせ暇をして体調を崩すくらいなら、なにか働いておけば良かった……いやあ、勉強になりました」

Aさんは苦笑いしながら話してくれました。

年金繰下げは「資金計画」がカギ

Aさんも体験したように「繰下げは資金計画がカギ」です。

65歳になってから繰下げを決めるのではなく、遅くとも50代から老後について計画を立て、年金収入を含む家計収支や貯蓄の推移をシミュレーションしたうえで、検討する必要があるでしょう。

そして、年金の繰下げ受給が家計に適しているのであれば「待期期間」の生活費もあらかじめ準備しておくことが大切です。

牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員