赤字に悩む寛さんのもとにかかってきた「知人からの電話」

息子・賢人さんのために肩代わりした1,000万円は、元木さんの資産にとっては大きな痛手です。4,500万円あった資産は、一気に3,500万円に減少。このまま毎月10万円の赤字が続けば、20年後に残る資金はわずか1,100万円になります。寛さんの胸に、不安が広がりました。

「このままじゃギリギリだな……」

年金だけでは赤字を埋められず、豪邸の維持費もかかり続ける。なにか収入の足しがほしい……そんな思いが芽生え始めたころ、昔の知人から1本の電話が入りました。

「新興国の不動産投資なんだけど、利回り20%で毎年300万円の収益が見込める。数年後には売却益も期待できるぞ」

聞けば、物価の安い現地では、2,000万円で物件を一棟購入できるといいます。

「収益が出れば、赤字が解消されるどころか、息子の借金分も取り戻せる……」

元木さんは、この話に強く惹かれました。

「その話、乗った!」

絶たれた希望、失われた資産

投資を決断した元木さんは、家族に相談することもなく2,000万円を指定口座に振り込みました。「20%」という高い利回りに少し怪しい気持ちがあったものの、最初の3ヵ月は毎月25万円の家賃収入が入り、徐々にその気持ちも薄れていきます。

「このままうまくいけば、車をもう1台買ったっていいかもしれないな」

寛さんは夢見心地です。

しかし4ヵ月目、突然振込がストップ。知人に連絡を試みるも応答はなく、しだいに嫌な予感がしてきます。

調べてみると、同様の被害がネット上で多数報告されていることが発覚。元木さんはついに、「これは詐欺だ」と認めざるを得ませんでした。

現役時代に積み上げた大切な資産は、わずか数ヵ月で消失。赤字と息子への援助、詐欺被害が重なり、資産は4,500万円から1,500万円へと激減しました。

――その日、元木さんは大好きなルーフバルコニーで通帳を見つめたまま立ち尽くしていました。ページをめくる手は止まり、ただ冷たい風が吹き抜けていきます。

「まさか、こんなはずじゃなかったのに……」