郊外の豪邸で理想的な老後を過ごしていた元木さん(仮名)。現役時代の最高年収は1,400万円で、年金も月に30万円あり、一見暮らしには申し分ありません。しかし、立て続けに起きた「2つの出来事」をきっかけに、思わぬ「老後破産危機」に陥ってしまいました……元木さんにいったいなにがあったのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が事例をもとに、老後生活で起こり得るリスクについて解説します。
年金月30万円だぞ…現役時代は年収1,400万円の70歳・元上場企業サラリーマン“自慢のバルコニー”で呆然。名古屋郊外での“豪邸暮らし”が一転「老後破産」危機のワケ【CFPの助言】
赤字に悩む寛さんのもとにかかってきた「知人からの電話」
息子・賢人さんのために肩代わりした1,000万円は、元木さんの資産にとっては大きな痛手です。4,500万円あった資産は、一気に3,500万円に減少。このまま毎月10万円の赤字が続けば、20年後に残る資金はわずか1,100万円になります。寛さんの胸に、不安が広がりました。
「このままじゃギリギリだな……」
年金だけでは赤字を埋められず、豪邸の維持費もかかり続ける。なにか収入の足しがほしい……そんな思いが芽生え始めたころ、昔の知人から1本の電話が入りました。
「新興国の不動産投資なんだけど、利回り20%で毎年300万円の収益が見込める。数年後には売却益も期待できるぞ」
聞けば、物価の安い現地では、2,000万円で物件を一棟購入できるといいます。
「収益が出れば、赤字が解消されるどころか、息子の借金分も取り戻せる……」
元木さんは、この話に強く惹かれました。
「その話、乗った!」
絶たれた希望、失われた資産
投資を決断した元木さんは、家族に相談することもなく2,000万円を指定口座に振り込みました。「20%」という高い利回りに少し怪しい気持ちがあったものの、最初の3ヵ月は毎月25万円の家賃収入が入り、徐々にその気持ちも薄れていきます。
「このままうまくいけば、車をもう1台買ったっていいかもしれないな」
寛さんは夢見心地です。
しかし4ヵ月目、突然振込がストップ。知人に連絡を試みるも応答はなく、しだいに嫌な予感がしてきます。
調べてみると、同様の被害がネット上で多数報告されていることが発覚。元木さんはついに、「これは詐欺だ」と認めざるを得ませんでした。
現役時代に積み上げた大切な資産は、わずか数ヵ月で消失。赤字と息子への援助、詐欺被害が重なり、資産は4,500万円から1,500万円へと激減しました。
――その日、元木さんは大好きなルーフバルコニーで通帳を見つめたまま立ち尽くしていました。ページをめくる手は止まり、ただ冷たい風が吹き抜けていきます。
「まさか、こんなはずじゃなかったのに……」