佐藤さんの「その後」

幸いにも、佐藤さんには貯蓄があと300万円ほど残っていたため、心身ともに健康でこれまでの収支を保てさえすれば、老後破産の危機はなんとか乗り切れそうです。

また、親から相続した自宅は1人で住むには広すぎるうえ、維持費もばかになりません。そこで、将来介護が必要になる可能性も見据えて、利便性の高いエリアのワンルームや介護施設への入居を検討しても良いでしょう。その際、自宅の土地建物を売却や賃貸に出せば費用を捻出できそうです。

「詐欺に引っかかった知り合いを横目に『自分だけは大丈夫』と思っていましたが、先日の一件でオフラインでのつながりの重要性を痛感しました。自分がSNS詐欺に引っかかったのは『孤独』が大きな原因のひとつだったと思います」

佐藤さんはそう振り返ります。

「オフラインでのコミュニティを広げるためにも、地元のコンビニエンスストアでアルバイトを始めたんです。仕事に関係のある会話がほとんどですが、なかには僕にあいさつしてくれる常連さんもいて……。同じバイトやお客さんと他愛のない会話をするだけで、孤独感が和らいでいるんです」

佐藤さんは、笑顔でそのように話してくれました。

貯蓄するなら「使い道」を決めて

佐藤さんが失ってしまった1,500万円もの大金は“なにかあったとき”のために貯めていたもので、その具体的な「なにか」は想定していませんでした。

もし仮に、自宅の修繕費や旅行費用、介護や看護など、具体的なお金の使い道や予算を決めていたら被害額を抑えることができたかもしれません。

また、佐藤さんの年齢から投資を始める場合、どのような方法でいくら増やすのか、そもそも増やす必要があるのか、オフラインの知り合いや専門家にも相談すべきでした。

警察庁が呼びかけているように、定年前後の世代は投資詐欺に狙われやすい傾向にあります。それまでと大きく環境が変わる定年後はとくに、家族を含めて「信頼できるコミュニティ」があると安心でしょう。

牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員