老齢年金には、通常どおり65歳から受給する方法のほか、「繰上げ」または「繰下げ」が可能です。制度自体は多くの人に知られているものの、繰り上げて早く受け取るか、繰り下げて将来の受給額を増やすか、はたしてどちらが得なのでしょうか? 事例をもとに、石川亜希子FPが解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
年金の繰下げを悔やんでいます…年金月37万円で「ゆとりある老後」のはずの72歳男性、預金通帳の残高をみながら“天を仰いだ”ワケ【FPが解説】
Aさんが繰下げ受給を後悔した理由
年金の受給が始まって1年ほどで、妻のBさんが家で転倒し骨折。入院を余儀なくされました。
その後無事に退院したものの、歩行時には足を引きずるように。テニスはおろか、散歩などで長い距離を歩くことも難しくなってしまいました。
Aさんが近所のお出かけに誘っても「こんな足じゃみっともないから」と、外出を嫌がります。自分だけテニスを楽しむこともはばかられ、妻と家に引きこもる毎日です。
「自分の選択を後悔してやみません……。こんなことなら65歳で仕事を辞めて年金をもらい、妻ともっと趣味や旅行を楽しめばよかった……」
Aさんは涙ながらにそう話してくれました。
繰上げと繰下げ、どちらが得なのか?
この答えは、受給者の健康状態や資産状況、ライフスタイルや価値観にもよるため、正解はありません。
厚生労働省の令和4(2022)年度厚生年金保険・国民年金事業の概況によると、繰下げ受給する人の割合は増加傾向にあるものの、厚生年金は約97.9%、国民年金についても約87.3%の人が、通常どおり65歳から受給しています。それだけ、繰上げや繰下げの判断は難しいということなのかもしれません。
「総受給額」だけにとらわれないで…ライフプランを鑑み、最適な選択を
大切なのは、「何歳からの受給が得か」という損得勘定ではなく、自分にとってこの先必要な金額を考えることです。
長く生きた場合の総受給額だけにとらわれず、どの選択をすれば「いまの自分」が安心して暮らせるかに重きを置いて考えてみてはいかがでしょうか。
石川 亜希子
AFP