老齢年金には、通常どおり65歳から受給する方法のほか、「繰上げ」または「繰下げ」が可能です。制度自体は多くの人に知られているものの、繰り上げて早く受け取るか、繰り下げて将来の受給額を増やすか、はたしてどちらが得なのでしょうか? 事例をもとに、石川亜希子FPが解説します。
年金の繰下げを悔やんでいます…年金月37万円で「ゆとりある老後」のはずの72歳男性、預金通帳の残高をみながら“天を仰いだ”ワケ【FPが解説】
複雑な年金ルールだが…押さえておきたい「繰上げ・繰下げ」のキホン
ところで、日本の公的年金には「国民年金(老齢基礎年金)」と「厚生年金(老齢厚生年金)」の2種類があります。
2つの年金制度は、20歳以上60歳未満のすべての人が対象となる国民年金に、会社員・公務員には厚生年金が上乗せされるという関係です。この構造を指して“2階建て”と呼ばれることもあります。
そして、国民年金と厚生年金はどちらも原則65歳から受給開始となりますが、制度を利用することによって、この時期を60歳から75歳までのあいだで自由に変更することも可能です。65歳になる前から受け取ることを「繰上げ受給」、66歳以降に受け取ることを「繰下げ受給」といいます。
受給開始の時期を変更することで変わるのが「受給額」です。原則65歳を基準に、繰り上げたときには年金額が月に0.4%減額され、繰り下げたときには月に0.7%増額されます。
つまり、仮に60歳まで繰り上げて年金を受け取ると年金額は24%減額され、75歳まで繰り下げて年金を受け取ると84%増額されるということです。
2022年3月までは、繰上げの減額率が月に0.5%、繰下げの期間が70歳まででしたが、法改正によって受給開始時期について選択の幅が広がりました。
繰上げ受給は「早く受け取れる」、繰下げ受給は「年金額が増える」といったメリットがある一方で、下記のような注意点もあります。
・繰上げ・繰下げによって減額・増額した金額は生涯続く
・一度繰り上げて受給を始めたら取り消すことはできない
・繰下げ期間中は加給年金※を受給することができない
(※ 加給年金……要件に当てはまる配偶者や子どもがいる場合に年金に上乗せされる家族手当のようなもの)
・繰上げは国民年金と厚生年金の両方を一緒に行う必要がある(繰下げはどちらか一方だけでもよい)
・繰下げ受給によって年金額が増えると、それに応じて税金や社会保険料が上がる場合がある(医療保険や介護保険の自己負担割合が増える可能性もある)