誰もがうらやむ公務員として59歳まで真面目に働いてきた山田誠一さん(仮名)。年収720万円、退職金見込み2,300万円、さらに年金見込みも年間240万円と、数字だけ見れば何の心配もない人生設計のはずでした。しかし、彼の財布の中身は空っぽ。毎月の給料日が来ても、手元に残るのはわずか数万円。一体何が起きているのか? 山田さんの事例から、安定収入という「安心の罠」に落ちないための教訓を、ファイナンシャルプランナー(FP)の青山創星氏が詳しく解説します。

59歳ベテラン地方公務員「年収720万円」「退職金見込額2,300万円」「年金見込額年240万円」で何の不安もない人生かと思いきや…給料日翌日には「財布が空っぽ」の謎。老後破産に脅え“眠れぬ夜”を過ごすワケ【FPの助言】
家族にも言えない『借金依存症』の実態—給料日が恐怖の日に変わるとき
山田さんの借金は、もはや彼一人では抱えきれない規模になっていました。しかし、公務員としてのプライドと体面から、家族にも同僚にも相談できずにいました。
「もう来たか。毎月の給料日が、喜びではなく恐怖の日になっていました。いくつもの返済先に振り分けたあと、家族に渡す生活費をどう捻出するか……。夜も眠れない日々が続きました」
安定収入があるがゆえに陥りやすい「借金依存」の特徴として、以下のような点が挙げられます。
1.返済能力への過信:「安定した収入があるから返せる」という根拠のない自信
2.社会的地位の維持:「公務員」「会社員」という肩書きを失うことへの恐怖から問題を隠す
3.借金のカモフラージュ:家族に気づかれないよう巧妙に借金を隠すスキルに磨きがかかる
4.一発逆転願望:投資やギャンブルですべてを解決しようとする非現実的な期待
山田さんもまさにこのパターンに当てはまっていました。彼は家族に内緒で別の銀行口座を作り、そこに給料の一部を振り込むよう設定。家族には「ボーナスが減った」「昇給が見送られた」などと嘘をつき、生活費の削減を求めていたのです。
老後破産を回避するための最後の砦—FPが解説する『借金脱出』3つの道
このままでは定年退職後、退職金のほとんどが借金返済に消え、老後破産は避けられない状況でした。追い詰められた山田さんは、ついに学生時代の友人に相談。紹介されたファイナンシャルプランナー(FP)の永瀬財也さん(仮名)にすべての借金を打ち明けました。
永瀬さんは山田さんの状況を分析し、債務整理について一般的な知識を共有したうえで、法的手続きができる専門家への相談を勧めました。債務整理には主に以下の3つの選択肢があります。
1.任意整理:裁判所を介さず、債権者と直接交渉して返済条件を変更する方法。将来利息のカットや返済期間の延長に加え、遅延損害金の免除を交渉できる場合もあります。ただし、元本自体の減額は基本的に認められません。
2.個人再生:裁判所の認可を得て、借金を大幅に減額し、通常3~5年で分割返済する方法。住宅ローン特則を利用すれば、自宅を手放さずに済む場合があります。ただし、一定の収入があることが条件となります。
3.自己破産:裁判所に破産を申し立て、債務の支払い義務を免除してもらう方法。基本的にすべての借金が免除されますが、税金や養育費などは対象外です。また、財産の処分が必要となる場合があり、職業や資格に制限がかかることもあります。
「山田さんの場合、退職金が見込めることと、公務員という職業柄、自己破産は最終手段と考えました。まずは任意整理で金利負担を減らし、退職金の一部を返済に充てる計画を立てました」と永瀬さんは説明します。
FPは債務整理の手続きを直接行うことはできないので、山田さんの状況を詳しく分析したうえで、信頼できる弁護士を紹介しました。
債務整理には弁護士や司法書士の専門的な知識が必要ですが、最近は悪徳業者も増えているため、山田さんに合った誠実な専門家を選ぶことが重要でした」と永瀬さんは付け加えます。
弁護士による任意整理の結果、山田さんの毎月の返済額は約25万円から15万円へと減少。さらに、永瀬さんの指導のもと、家計の見直しにより無駄な支出の削減も始めることができました。
「最も重要だったのは、借金依存症という心の問題に向き合うことでした。専門のカウンセラーに相談し、なぜ借金に頼るようになったのか、その根本原因を探ることも再発防止には有効な場合もあります」と永瀬さんは指摘します。