家族にも言えない『借金依存症』の実態—給料日が恐怖の日に変わるとき

山田さんの借金は、もはや彼一人では抱えきれない規模になっていました。しかし、公務員としてのプライドと体面から、家族にも同僚にも相談できずにいました。

「もう来たか。毎月の給料日が、喜びではなく恐怖の日になっていました。いくつもの返済先に振り分けたあと、家族に渡す生活費をどう捻出するか……。夜も眠れない日々が続きました」

安定収入があるがゆえに陥りやすい「借金依存」の特徴として、以下のような点が挙げられます。

1.返済能力への過信:「安定した収入があるから返せる」という根拠のない自信

2.社会的地位の維持:「公務員」「会社員」という肩書きを失うことへの恐怖から問題を隠す

3.借金のカモフラージュ:家族に気づかれないよう巧妙に借金を隠すスキルに磨きがかかる

4.一発逆転願望:投資やギャンブルですべてを解決しようとする非現実的な期待

山田さんもまさにこのパターンに当てはまっていました。彼は家族に内緒で別の銀行口座を作り、そこに給料の一部を振り込むよう設定。家族には「ボーナスが減った」「昇給が見送られた」などと嘘をつき、生活費の削減を求めていたのです。

老後破産を回避するための最後の砦—FPが解説する『借金脱出』3つの道

このままでは定年退職後、退職金のほとんどが借金返済に消え、老後破産は避けられない状況でした。追い詰められた山田さんは、ついに学生時代の友人に相談。紹介されたファイナンシャルプランナー(FP)の永瀬財也さん(仮名)にすべての借金を打ち明けました。

永瀬さんは山田さんの状況を分析し、債務整理について一般的な知識を共有したうえで、法的手続きができる専門家への相談を勧めました。債務整理には主に以下の3つの選択肢があります。

1.任意整理:裁判所を介さず、債権者と直接交渉して返済条件を変更する方法。将来利息のカットや返済期間の延長に加え、遅延損害金の免除を交渉できる場合もあります。ただし、元本自体の減額は基本的に認められません。

2.個人再生:裁判所の認可を得て、借金を大幅に減額し、通常3~5年で分割返済する方法。住宅ローン特則を利用すれば、自宅を手放さずに済む場合があります。ただし、一定の収入があることが条件となります。

3.自己破産:裁判所に破産を申し立て、債務の支払い義務を免除してもらう方法。基本的にすべての借金が免除されますが、税金や養育費などは対象外です。また、財産の処分が必要となる場合があり、職業や資格に制限がかかることもあります。

「山田さんの場合、退職金が見込めることと、公務員という職業柄、自己破産は最終手段と考えました。まずは任意整理で金利負担を減らし、退職金の一部を返済に充てる計画を立てました」と永瀬さんは説明します。

FPは債務整理の手続きを直接行うことはできないので、山田さんの状況を詳しく分析したうえで、信頼できる弁護士を紹介しました。

債務整理には弁護士や司法書士の専門的な知識が必要ですが、最近は悪徳業者も増えているため、山田さんに合った誠実な専門家を選ぶことが重要でした」と永瀬さんは付け加えます。

弁護士による任意整理の結果、山田さんの毎月の返済額は約25万円から15万円へと減少。さらに、永瀬さんの指導のもと、家計の見直しにより無駄な支出の削減も始めることができました。

「最も重要だったのは、借金依存症という心の問題に向き合うことでした。専門のカウンセラーに相談し、なぜ借金に頼るようになったのか、その根本原因を探ることも再発防止には有効な場合もあります」と永瀬さんは指摘します。