高齢者虐待は他人事ではない!経済DVの実態と背景

和子さんのケースのように、親の年金を養護者の子供が使い込む「経済的虐待」は深刻な問題です。高齢者虐待は、身体的虐待や精神的虐待だけではありません。厚生労働省老健局が2024年に発表した調査結果によると、高齢者虐待のうち14.9%が「経済的虐待」に分類されています。

家族による経済的虐待とは、いわゆる高齢者虐待防止法の条文で「養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること」と定義されています。

具体的には、年金や預貯金の使い込み、不動産の無断売却などが挙げられます。

近年の経済状況の悪化や、子供世代の非正規雇用の増加もこの問題を助長していると考えられます。高齢の親は自分の老後資金を守る手段を持たないことが多く、親子関係を理由に泣き寝入りするケースも少なくありません。

泣き寝入りは禁物!親の財産を守る4つの防衛策

こうした経済的虐待を防ぐために、以下の対策が考えられます。

(1) 家族や周囲の早期介入

複数の子供や頼れる親族がいる場合は、親の財産状況を把握し、異変に気付いたら早めに対処することです。施設の職員や地域包括支援センターと連携し、適切なサポートを受けましょう。

(2) 財産管理を第三者に委ねる

より強力な対策を希望するのであれば、信頼できる親族、あるいは、実務経験が豊富で、かつ最新の制度に精通した専門家への依頼を検討しましょう。具体的には、家族信託や任意後見などを活用し、子供が勝手に年金を引き出せない仕組みを作ることです。

(3) 成年後見制度の活用

親の認知能力に低下が見られる場合は(2)の対策が難しいケースもあります。その際は、成年後見制度が有用です。後見人が財産管理を行うことで、不正な引き出しを防ぐことができます。

(4) 緊急時の支援制度の活用

施設費が払えなくなった場合、緊急的に「高齢者生活支援ショートステイ」などの制度を利用できる場合があります。一時的な措置にはなりますが、最悪の場合、地域包括支援センターや市区町村の福祉課に相談することも押さえておきたいところです。

経済的虐待の問題は、加害者である子供側にも複合的な問題を抱えているケースが少なくありません。隆さんのような状況に陥っている子供世代は、親の年金に依存する前に自立のための支援を受けることが重要です。

和子さんのケースでは、最終的に美香さんが積極的に介入し、地域包括支援センターと連携して対応することに。隆さんにはギャンブル依存症の治療を受けさせる一方、和子さんの口座管理は美香さんが引き継ぎました。

施設費の未払い分は美香さんが立て替え、その後の管理体制も整えることで、和子さんは引き続き老人ホームで安心して暮らせるようになりました。

高齢の親が安心して暮らせるように、家族や社会全体での対策が求められています。「親の年金を頼りにしない」生活を子供世代が確立することが、根本的な解決につながるのではないでしょうか。

三原 由紀
プレ定年専門FP®