1971年~1974年に生まれた団塊ジュニア世代。好景気に沸く中学・高校時代に描いた“明るい未来”とはかけ離れた現実を生きている人も少なくありません。新卒で商社に入社後、48歳まで“安定のホワイトカラー”だった稲葉彬さん(仮名)もその1人です。ルポライター増田明利氏の著書『今日、50歳になった 悩み多き13人の中年たち、人生について本音を語る』(彩図社)より、50代の“生の声”を紹介します。

大失敗でした…年収240万円の51歳男性、商社マンから「フリーター」に転身した“まさかの理由”【ルポ】
稲葉家が生活に困窮しない理由
妻のおかげで“世帯月収”は約40万円
アルバイトでの月収は19万円前後。それでも生活に困窮することはないが、これは奥さんのお陰だ。
「妻は税理士資格を持っていまして。次女が中学に上がるまでは専業主婦だったのですが復職しまして。今は大学の先輩の税理士法人で1日6時間、週4日勤務の非常勤で働いています」
月収は20万円ほどになるということだから2人合わせた世帯月収は40万円ぐらいにはなる。これなら住宅ローンを抱えていても十分暮らせていける。
「だから妻を怒らせないよう気を遣っています。夕飯に冷凍食品やスーパーのお惣菜が並んでいても文句を言うのはご法度。ありがたく食べている」
トイレや風呂場の掃除は率先してやっているし、週3回のゴミ出しも稲葉さんの仕事。スーパーで特売品を買うために順番待ちすることもあるし、自分の汚れ物は自分で洗濯している。
50代の失敗は挽回が難しい…拭いきれぬ「後悔」
もうすぐ52歳になろうかというのにフリーターじゃいかにも不味い。何とか定職を得たいが上手くいっていない。
「そんなわけでハローワークの指導員さんから就職支援講習を受けてみてはどうかと打診されているんです」
警備スタッフ、マンション管理人、調理業務アシスト、介護職員初任研修などのコースがあり、受講料は無料。講習最終日にはハローワーク主催の合同面接会に参加できるということだった。
人手不足だと言われているが希望する事務・営業系の職種は求人が少なく、年齢制限が設けられていることもある。この期に及んで選り好みしている場合じゃない。
「50代に入って失敗するとダメージが大きい。残された時間が少ないから挽回するのが大変だもの」
熟慮せず退職したり、フランチャイズビジネスに手を出したりしなかったらこんな苦労しなくて済んだはず。自分にごめんなさいと詫びたくなる。たとえ年収が100万円下がったとしても今より格段に豊かなのだし、家庭に隙間風が吹くこともなかったのだから。
「会社を辞めてもいいのは誰が見ても素晴らしい実績を持っている人。難関の国家資格を取って資格で食べていける人。さもなければ、会社からこれだけの手当てをするので辞めてくださいと言われた人。これぐらいですよ」
勢いや思い込みだけで退職しても良いことはひとつもない。自分から苦難の道を選ぶ必要はなかった。大失敗したと思う。
増田 明利
ルポライター