春は歓送迎会が最も多く行われるシーズン。お酒を飲む機会が増えますが、飲酒する際にむせた経験はないでしょうか? もし、20代と比べてその頻度が高くなっている場合は要注意! 単なる加齢のサインではないかもしれません。40代・50代から始まるこの病気は、放置すると要介護・死亡リスクを高め、医療費負担の増加や生産性低下に繋がる可能性も。健康寿命を延ばし、活気ある経済社会を維持するためにも、早期対策が重要です。本記事では幸町歯科口腔外科医院院長の宮本日出氏が、意外と知られていない口腔機能に関する病気について解説します。
飲むときに、むせる…50代の2人に1人、発症4年後に死亡するリスクは2.1倍。疑うべき「恐ろしい病気の名前」【歯科医師が警鐘】
死にもつながる「オーラルフレイル」の怖さ
「口腔機能低下症」は病名で、一般的には「オーラルフレイル」として知られています。「フレイル」とは「衰え」を意味し、「オーラル」は口を指します。
人間の身体の活動状態は、
1.健康状態
2.オーラルフレイル
3.(全身)フレイル
4.介護状態
と衰えが進みます。1、3、4は状態を指すに過ぎませんが、2のオーラルフレイルはその状態により病気を指します。病気ですから治療が必要ですし、治療しないで放置すると悪化します。オーラルフレイルを放置すると、命を危険に晒す可能性が出てきます。オーラルフレイルが発症した場合、4年後に死亡するリスクは2.1倍になるのです。
最近は、目の衰えを「アイフレイル」、足の衰えを「フットフレイル」、耳の衰えを「ヒアリングフレイル」と呼ぶこともありますが、これらはすべて器官の衰えを表しているに過ぎません。またこれらのフレイルを放置しても要介護状態になったり、死亡リスクに直接影響を与えたりしませんが、オーラルフレイルは影響を与えるので要注意です。
オーラルフレイルは全身の衰えの兆候なので、健康対策を講じるならまず初めに取り組むべき対策といえます。
口腔機能対策には3つの習慣
口腔機能低下を防ぐ対策には数多くの方法がありますが、年齢を重ねると低下が進行することから「継続」が最も大切です。そのためには簡単な方法であることが必要だと考えます。当院で推奨している方法は、
1.舌回し
2.あいうべ体操
3.全力5秒うがい
の3点です。
1.舌回し
舌を唇の裏側に挿入し、ゆっくり大きく時計回りと反時計回りにそれぞれ5回転ずつ回します。舌を唇や頬に押すように回すことがポイントで、舌の奥のほうに疲労感を感じると効果が実感できます。
2.あいうべ体操
あいうべ協会が推奨している方法で「あ」「い」「う」「べ」と大きく運動する方法です。「あ」では喉の奥が見えるくらいに大きく口をあけ、「い」では奥歯の外側が見えるくらいに口を横に広げます。「う」は唇を尖らせ、鼻先より唇が前に突き出るところまで唇を出します。「べ」は舌を下顎に沿って出して「あっかんべー」のようにしますが、鏡を見てどれくらい舌が出ているかを確認しながら行ったほうが効果的です。
3.全力5秒うがい
NHKでも紹介された方法で、少量の水(30ml=大さじ2杯)を口に含み「ブクブクうがい」と「ガラガラうがい」をそれぞれ5秒ずつ行います(3セット繰り返す)。ブクブクうがいでは、全力で舌を前後に動かしてください。ガラガラうがいでは喉の動きに意識すると効果的です。また全力5秒うがいは、97%の除菌効果があることがNHKで証明されているので、口腔の衛生にも有効です。うがいはもともと行う習慣なので、最も継続して行える対策といえそうです。
特に嚥下機能対策には、舌を使う方法が効果的ですが、これは舌を鍛えているのではなく、喉にある筋肉(舌骨状筋群)を鍛えています。ときどき「舌を鍛えると舌が大きくなって噛んでしまうのでは?」と心配する人もいますが、大きさは変わりませんので大丈夫です。