妻の退職で収入激減…資産形成に黄色信号
夫婦共働きで3,000万円の世帯年収があったら、毎日の生活は非常に豊かなものとなるのはいうまでもありません。生活費はもちろん、子供の教育費や住宅ローンの返済などに悩むことは一切ないでしょう。
しかし、一生安泰の生活に見えても、意外と現実はそうではありません。収入を給与所得だけに依存しているため、勤務先の業績の変化や自分の健康状態によって常に変動リスクにさらされています。もしウツになって出勤することができなくなったら、もし子供が病気になり常に付き添う状態になったら、夫婦のどちらかが仕事を辞める決断をすることも不思議ではありません。
収入が半減してしまうと、それまで順調に進めていた資産形成もスピードダウンは必至。住宅ローンや教育費の金額によっては資産形成を中断するしかなくなります。パワーカップルが「シングルインカム」になった時にも、資産形成を継続する手段はないのでしょうか。事例を紹介します。
【事例】
■家族構成
夫Tさん…45歳/年収1,300万円/大手メーカー勤務
妻Mさん…44歳/年収1,700万円/勤務医
長女…13歳
次女…10歳
■住宅ローン残債…7,200万円
TさんとMさんは共働きで高収入を得る、いわゆるパワーカップルです。夫のTさんは大手企業勤務、妻のMさんは勤務医。世帯年収は約3,000万円と高額です。15年前に結婚してから、世帯年収は順調に伸びてきました。
高い年収の夫婦ですが決して派手な生活をしているわけではありません。夫婦ともに九州の田舎育ちのせいか、高級車や高級時計などには興味がないのです。贅沢といえば7年前に東京都心のタワーマンションを購入したことくらい。とはいえコロナ禍前でマンション価格がまだ現実的な時期でした。今では1億5,000万円はする物件ですが、当時は1億円以下で買えたのです。
夫婦は結婚直後から金融投資を始めました。最初は毎月10万円ずつを積み立て型の投資信託に入れていました。それに加えて5年前からはつみたてNISAをはじめ、現在は毎月10万円ずつ。さらにボーナスなどで100万円程度の余裕が生まれたら、その都度個別株を購入するというスタイルです。
そのほかにも普通預金に入れている貯蓄と、3年前に亡くなったTさんの父親からの相続1,500万円、さらに2年前の宝くじの当選金1,000万円もあります。金融資産の合計は現時点で1億6,000万円ほど。
一方で負債は住宅ローンの残債として7,200万円があります。変動金利0.45%で借りていますが、今後は金利上昇すると見込んでいるものの、返済できなくなることはないと思っています。ガン保障付団信に加入しているため、繰り上げ返済はしないつもりです。
突然、妻の退職希望を聞いて動揺
夫のTさんは、最近動揺を隠せません。勤務医をしていて自分よりも年収が高い妻のMさんが、退職したいといっているのです。開業でも転職でもなく、子供の教育に専念したいので仕事自体を辞めたいという意向です。
勤務医の仕事と受験期の子供のサポートは両立できないというのが妻の意見です。当直やオンコールの待機もあるため、時間だけでなく体力面でも大きな犠牲を払っています。長女は私立中学校、次女は私立小学校に通っていて、母親と同じく医学部への進学を目標にしているようです。
「親が多忙で留守にしがちでは、子供は勉強に集中しない」と妻Mさんは考えています。妻Mさんは子供の教育に対して強い思いがあります。自分が医学部に入学する時に2年間の浪人期間があり、卒業時は26歳でした。そこから研修医としての多忙な期間があったため、将来自分が子供を持てるのか強い焦りがあったといいます。仕事をしながらやっともうけた二人の娘であるため、仕事よりも優先したい気持ちが強いとのこと。
夫Tさんは妻の気持ちは尊重したいものの、正直な気持ちとしてお金が不安です。世帯年収3,000万円から1,300万円に激減します。もはやパワーカップルではなくなります。手取りを考えると住宅ローンすら返済できるのか不安がよぎります。
しかし妻は「いざとなったらマンションは高く売れるし、貯蓄もあるでしょう」と意に介していません。「娘が大学に入ったら、またアルバイトでもするよ」とも。
今後、資産形成は中断せざるをえないのでしょうか。FPに質問することにしました。
FPのアドバイス
FPがライフプランを計算してみると、金融投資を今後は縮小する必要があるものの、65歳で1億円程度は残る予想でした。教育費と住宅ローンを支払っても、1億円の資産と完済したマンションが残るので決して苦しい老後ではありません。
ところが夫Tさんは不満げです。「しかしそれでは目減りするだけ。お金の寿命を延ばすだけでは不安だし興味ない」といいます。夫Tさんは、この見通しのきかない時代でより多くのお金を貯めておきたいのです。娘2人にもそれぞれお金を残してあげたい。
夫Tさんはおそらく「貯める・増やす」というだけでは不安のようです。「稼ぐ」の部分が心情的に重要だと理解したFPは、今後の資産形成の手段として「アパート経営」を勧めました。妻Mさんも時間が生まれるし、スキマ時間でも十分にこなせるアパート経営は夫Tさんの問題の解決になるといいます。
「アパート経営? まったく考えたこともなかったです。地主のおじいさんがやるイメージですが……」
しかしFPは最近、投資のリスク分散の一環として利用する若い人が増えていると説明します。不動産投資は金融投資のようにほったらかしにできる投資ではありませんが、金融投資とはリスクの種類とタイミングが異なります。現物投資であるため、経済動向や感染症の拡大などのような社会情勢に影響を受けにくいことが利点。もちろん不動産投資ローンの金利が上昇すると利回りが変化しますが、新入居者から家賃を上げることで対応することも可能です。不動産投資で億万長者になることは難しいですが、金融投資よりもリスク性が穏やかとも言えます。
専業大家のようにアパート経営だけで生活しようとすると、借入額も巨額になり非常に大きなリスクを背負うことになります。Tさんは、金融投資を継続する原資を獲得する目的の「身の丈アパート経営」と考えたらどうかと、FPがアドバイスします。
身の丈にあった最小限のアパート投資でも、家賃という現金が生まれます。ローンを返済しつつ家賃収入の一部を金融投資に回し、減価償却期間が終わるころに売却してキャピタルゲインを得て手じまいにすると、トータルの利回りはしっかり確保できる可能性が高まります。
もちろん、100%に近い入居率を維持し、家賃を高く設定できるような立地戦略が重要。また、孤独死による特殊清掃事案が起きないように、入居者のペルソナを設定することも必要です。
「僕にできるのかな……」と夫Tさんが不安げでしたが、妻Mさんは「面白そう!」と興味津々の様子。アパート投資は自分自身での勉強が必須です。勉強不足、戦略不足のまま田んぼのある田舎にアパートを建てて、空室ばかりという光景をよく見ます。不動産投資会社など専門家の協力を得て、「勝てる不動産投資戦略」を練っていく必要があります。