介護施設の利用には様々なメリットがありますが、そこには少なからず影も存在します。現実の介護の現場ではどんなことが起きているのでしょうか? 本記事では川村隆枝氏の著書『亡くなった人が教えてくれること 残された人は、いかにして生きるべきか』より一部抜粋・再編集し、介護の現場の実態について考えていきます。
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ヤングケアラーの悲哀
ヤングケアラーの認知度を高めるために、テレビ番組やCMでの広報活動が活発になりつつあります。先日テレビで悲しく心を痛める報道がありました。ヤングケアラーの子供が学校健診に行かなかったため、成長過程で重要な所見や病気が見逃され、早期発見すれば事なきを得たはずなのに、残念な結果になって苦しんでいる。というものでした。ヤングケアラーについて少し考えてみましょう。
ケアが必要な家族がおり、介護できる大人がいない場合、子供がその役割を担わさるを得ません。ヤングケアラーとは、病気や障害のある家族の介護や世話で忙しく、本来受けるべき教育を受けられなかったり、同世代との人間関係を満足に構築できなかったりする子供を示す言葉です。多くの場合、その子供がケアしているのは、障害や病気のある親や高齢の祖父母、兄弟姉妹などです。
手伝いの域を超える過度なケアが長期間続くと、心身に不調をきたしたり遅刻や欠席が増加したりするなど学校生活への影響も大きく、進学・就職を断念するなど、子供として守られるべき権利が侵害されているケースもあり支援が必要です。
ヤングケアラーの存在自体は周囲の人に「気や障害のある親族を見ている存在」としては知られていますが、ヤングケアラーという言葉自体の認知度はまだ高いとはいえません。また、自身がヤングケアラーであると自覚している子供も少なく、幼少期から介護が日常の一部となっていたため、自覚のないまま負担を背負っている子供も多く存在するといわれています。
以前は大家族が多く、誰かが倒れてもほかのみんなで面倒を見ることで負担が軽減されていましたが、近年、核家族化が進むことにより、家族の構成人数が減ってきて、支援が必要な親や祖父母などを周囲の大人から支援してもらうことが難しく、子供が負担を背負うことになってしまっています。母子家庭では母親に看護や介護が必要となり、ほかに頼る人がいなくなると、子供が看ざるを得ない状況に陥ります。
「家族以外の人に知られたくない」「迷惑をかけてしまうのが嫌だ」などの理由で子供がほかの人に相談せずに抱え込んでしまい、やむを得ずヤングケアラーになってしまうと考えられます。そうした子供は学業に支障が出るだけでなく部活動や友達と遊ぶ時間が奪われ、思春期に大切な交友関係が希薄になり孤独を感じることも問題です。友人たちに介護の話をしても、共感してもらうことは難しいことから、誰にも話せずに孤立を深めていくケースが多く見られます。
川村 隆枝
医師・エッセイスト