2010年代から国内で社会問題になっている「8050問題」。中高年の“引きこもり”を高齢の親が支える構図は、定年を迎え介護が必要になる親にとって生活が困窮しかねない深刻な問題です。具体的な事例をもとに「8050問題」の現状と解決策についてみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。

お願い、俺が悪かったから見捨てないで…70代元教師の両親に「全力で甘える」49歳無職男性、年金月23万円の79歳父から告げられた〈衝撃の事実〉に号泣【CFPが解説】
Cさんの自立のため…Aさんが打った“大芝居”
相談を受けた数週間後、なにかが吹っ切れたような、明るい表情のAさんが筆者のもとを訪れました。
「あのあと、妻には反対されたんですが、一か八かの芝居を打ったんです」
聞けば、Aさんは杖をつきながら息子であるCさんの部屋に入り、パソコンに向かっているCさんに向けて次のように言ったそうです。
「見てのとおり、足が思うように動かなくなった。だからここ(自宅)を売って、母さんと老人ホームへ入ることに決めたよ。悪いが、はやく次の家を見つけて出ていってくれ」
するとCさんは「そんな急なことを言われても……。ごめん、親父。お願い、俺が悪かったから見捨てないで……」と号泣しながら懇願しました。
息子の反応はAさんの予想を超えるもので「少し可哀そうだな」とネタバラシしようとしましたが、次のCさんの言葉に思い直したそうです。
Aさんがふと後ろを向いたとき、Cさんはぼそっとつぶやくように言いました。
「父さんのその後ろ姿、小さいとき連れて行ってもらった映画館で観た『バットマン』のペンギンにそっくりだね」
息子はそう言って、笑い出したそうなのです。
「息子の思わぬ指摘と、数年ぶりの笑顔に、つられて私も笑ってしまったんです。久しぶりに親子で大笑いしましたよ」
その後、妻のBさんも含めた3人で真剣に今後のことを話し合い、自宅をリフォームすることを決断しました。
その後Cさんは「引きこもり地域支援センター」の支援もあり、自宅でできる仕事を見つけ、徐々に外出する時間も増えたそうです。
Aさんは「息子の自立を見守っていきます」と言って、杖をつきながら帰っていきました。A家の騒動はひとまず落ち着いたようです。
親子共倒れの悲劇を避ける…「8050問題」は周囲を頼って
A家のケースは、幸運なことに経済面での心配がありませんでしたが、今回紹介した8050問題では、高齢の親が経済的困窮に陥るケースも多く、対策を講じないと事態は悪化し、親子共倒れになりかねません。
とはいえ、こうした「8050世帯」が自分たちの力だけで事態を解決することは困難がともないます。A夫婦が行ったように、自治体の担当窓口や、地域の民生委員などに相談し、公共の力を借りて解決に進むことが大切です。
牧野FP事務所合同会社
牧野 寿和
代表社員