傍若無人な姉を黙らせた“夫のひと言”

そんな2人のやり取りをみていたAさんの夫がついに口を開きました。

「姉さん、いい加減にしろよ。大丈夫だよA、遺産はAの分もあるから」

「いやいや、そんなわけないでしょう。Aちゃんには遺産を受け取る権利がないのよ」

義姉が反論すると、夫は淡々と次のように説明します。

実は、義父は生前「Aさんには感謝してもしきれない。お礼の気持ちも込めて、Aさんにも財産を遺すから」と息子である夫に伝えていたのです。

具体的には、父親は知り合いの専門家に相談のうえ、死亡保険金の受取人をAさんとすることで、相続権のないAさんにも財産を遺せるように対策しました。さらに、姉の性格上、相続で揉める可能性が高いと考えた父親は、姉には遺留分相当の財産のみを相続させ、あとは配偶者である義母と息子である夫とで遺産を分けるよう「公正証書遺言」を作成していたのでした。

「……」

遺産の取り分が予想より少なくなったとはいえ、もっとも平和な解決策に、姉はぐうの音も出ませんでした。

「長男の嫁」に財産を遺すには

法律上、「長男の嫁」には相続権がありません。そのため、原則として遺産分割協議に参加することはできないという義姉の認識は、感情論を抜きにすれば正しいといえるでしょう。

とはいえ、義姉の言動はAさんにとって、あまりにも報われない扱いといわざるを得ません。

今回のケースの場合、Aさんの夫が父親と生前に話し合っていたこと、父親が遺言書を作成していたことが功を奏し、相続トラブルの深刻化を回避できました。

生前対策をしていなくても…「特別寄与料」を請求できる

Aさんたちのような「介護をした嫁」と「介護をしなかった実子」によるトラブルの事例は多いです。

こうした状況を受け、令和元(2019)年に民法が改正され、相続人以外の人物にも「特別寄与料」が認められるようになりました。

特別寄与料とは、親族のうち相続人でない人が、被相続人(故人)を無償で療養看護するなど、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合に、その寄与分に応じて請求できる金銭のことです。「長男の嫁」は、特別寄与料を請求できる親族に該当します。

被相続人が対策をしていなくても「特別寄与料」を請求することで、被相続人のために寄与(貢献)した長男の嫁は、被相続人の財産を受け取れる場合があるのです。