借金返済のため若くしてマグロ漁船員になった筆者。最初の航海では「二度と乗るものか」と思ったほどでしたが、何度かの乗船経験で自信をつけたことから、またもや海へ出ることを決意します。もっとも、“労働基準法が適用されない”というマグロ漁船。船内は“想像を絶する”過酷さでした。菊地誠壱氏の著書『借金を返すためにマグロ漁船に乗っていました』(彩図社)より、詳しくみていきましょう。

親の借金5,000万円返済のため…17歳の「マグロ漁船員」が“超絶ブラック労働”で稼いだ〈衝撃の給与額〉【体験談】
みんなが知らない“マグロ漁船員あるある”
初めての航海は3人の女の子が見送りに来ていましたが、このときには美和ちゃん1人でした。本当に美和ちゃんには感謝です。
マグロ漁船員は女日照りが当たり前なので、遊び盛りの若者にとっては切実な問題です。1ヵ月陸にいないうちに彼女に逃げられるなんていうのは当たり前の話です。だから、陸に上がったらまず女を作る。これが大事です。
女の子の話は船内でも鉄板ネタで、よく盛り上がります。私の友達のマグロ漁船員は、陸に上がるたびにナンパや紹介で彼女を作り、だいたい2週間(遠洋だと1ヵ月)の休暇をエンジョイしていました。それはもう必死だったみたいです。なんだかむなしい現実ですが……。
高橋さんは面白くて親しみやすかったです。無精ひげを生やしていて冴えない浪人生みたいな感じの人でしたが、実はボースン(甲板長)※の息子だったのです。しかも冷凍長をやっているという幹部の人間ですから驚きました。実際、仕事もそれなりにできる人でした。高橋さんはクシャッと笑う笑顔がとても印象的で、愛嬌があっていい人でした。
※…甲板長はボースンと呼ばれ、船の甲板の上でのさまざまなことを取り仕切るマネージャーのような役職。船の中ではナンバー2のポジション。
この高橋さんとよくつるんでいたので、新しい船でもなんとかなっていました。マグロ漁船という厳しい職場なので当然不満も多く、よく2人で愚痴っていました。端っこの寝台の前で、2人で酒を飲んでいました。
マグロ漁船は決して楽な仕事ではありません。シケで波は荒れるし、仕事がキツいのはどの船でも変わりません。時には怪我をしたり、命の危険にさらされたりすることもあります。サメも多くて本当に怖いです。
私も両親が借金をしていなければ当然マグロ漁船などには乗っていませんし、すべては親のためです。
そういう過酷な環境で生き抜くには、心を許せる話し相手が必要なのです。こういう人の存在は航海において重要だと思います。