
会社帰りのAさんを待ち受けていた「衝撃の事態」
秋めいてきたある金曜日の夜、Aさんが会社から帰ってくると、いつもついているはずの家の明かりがすべて消え、妻と子どもたちがいません。
「おい、どこにいる」
Aさんが大声を出しても、家はしんとしたままです。
ふとダイニングテーブルを見やると、1枚のメモが置いてありました。
――2~3日、子どもたちと出かけてきます。
「なっ……! こんな大事な時期になにをしているんだ!」
怒ったAさんはすぐに妻の携帯に電話をかけますが、何度かけてもまったくつながりません。
悶々とした週末を過ごしていると、2日後の日曜の夜、約束どおり妻のBさんが子どもたちを連れて帰ってきました。
妻の“ド正論”に撃沈
妻が帰ってきたらなんと言ってやろうか……。
あれこれ考えていたAさんでしたが、3人は家に着くなり、Aさんが言葉を発するよりも前にBさんが口を開きました。
Bさん「急に妻と子どもがいなくなって、どう思った? こんな1分1秒無駄にできない時期に、って思った? それとも、いったいなにがあったんだろう、って心配した?」
Aさん「無駄にしていい時間なんてあるわけないだろう」
Bさん「あなたがやってるのは『教育虐待』よ。愛するわが子のためじゃない。これ以上Cを傷つけることは許さないし、私たちがいないことを心配するより勉強の遅れが気になるんだったら、離婚を考えます」
Aさん「おい、なに言ってんだ……? CがX中に入学できなくてもいいのか? 勝ち組になれないぞ!?」
Bさん「ねえ、勝ち組ってなに? あなたみたいに、息子に寄り添えない父親になることなの? X中、X中って、自分の母校でもないくせにうるさいのよ!」
いろいろ言いたいことがあったはずのAさんでしたが、初めて見る妻の剣幕に、なにも言い返すことができませんでした。
中学受験は“撤退”…別人のように明るくなったCくん
その後、妻と息子と話し合った末、Cくんは中学受験を撤退することにしました。入試のためにいくつも掛け持っていた塾も辞め、Bさんが「好きなことをしなさい」と助言した結果、Cくんはプログラミング教室に通うことに。放課後自由に過ごせる時間も増え、無表情だったCくんにも笑顔が見られるようになりました。
ようやくわれに返ったAさんは、BさんとCくんに謝罪しましたが、あのとき以降、蚊帳の外です。
とはいえ、実際、経済的にもラクになったことはたしかです。さらにAさん自身、「CくんをX中に合格させなければ」という思い込みからも解かれ、重荷を下ろしたような、少しホッとしている自分にも気づきました。
親が子どもの成功を願うのは自然なことですが、その気持ちが行き過ぎてエスカレートしてしまうと、想定以上の費用がかかるほか、知らず知らずのうちに「教育虐待」へとつながってしまう可能性があります。
子どもの人生と自分の人生は別のものです。なぜ中学受験をするのか、子どもの気持ちを尊重できているか、常に意識していきたいものです。
石川 亜希子
AFP