65歳で定年退職を迎え、穏やかなセカンドライフを満喫していた夫婦。ところが“まさかのできごと”により、夫婦は「お金なんていらない」と嘆くハメに……。いったいなにがあったのか、具体的な事例をもとに詳しくみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和が、解説します。※プライバシー保護のため登場人物等の情報を一部変更しています。

お金なんていらない…〈年金月26万円〉〈資産1.2億円〉60代“勝ち組”夫婦が「ちっとも幸せじゃない」と嘆くワケ【CFPが解説】
未来のCさんを待ち受ける「悲劇」
A夫婦から一連の話を聞いた筆者は、まずA家の家計と資産を確認してみることにしました。すると、今後のリフォーム費用や医療費を考慮したとしても、Bさんが100歳になった時点で3,000万円ほどの預金が残る計算でした。よって、海外旅行など大きな贅沢の頻度が増えない限り、A夫婦が生涯お金に困ることはなさそうです。
むしろ、筆者が危惧していたのはCさんの未来でした。
Cさんは「多額の相続税」を納めなければならない可能性
万が一のことを考慮して、たとえば20年後にCさんへの相続が発生した場合のことを考えてみましょう。その時点での金融資産を4,000万円として、自宅の土地建物7,000万円※をあわせると、合計1億1,000万円の資産をCさんが相続することになります。
※Aさんが複数の不動産業者に自宅の売却価格を聞いたところ、いずれも土地代だけで7,000万円ほどとの回答があった。
Cさんが実際に相続する資産総額はわかりませんが、詳細な相続税課税額の計算は税理士に依頼するとしても、Cさんが相続する遺産額は基礎控除額※の3,600万円を大きく上回りそうです。したがって、このままではCさんが多額の相続税を払うことになるでしょう。
※基礎控除額の算出式=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
多額の相続税を回避するには
こうした事態を防ぐためにも、A夫婦は「生前贈与」を検討する必要がありそうです。
生前贈与は、基礎控除額である110万円の範囲内で毎年贈与を行う「暦年贈与」のほか、下記のような贈与方法が考えられます。
都度贈与
親や祖父母から子や孫へなど、扶養義務のある家族間で、生活費や教材費、結婚式の費用、婚姻後の家具購入費用など、社会通念上適当と認められる範囲内で「必要なときに必要な額だけ」贈与します。
この際、手渡しなどではなく、口座振替で贈与を行い、領収書を必ず取っておくなど「証拠」を残しておくことが大切です。
なお、都度贈与は原則非課税ですが、生活費や教育費の名目でありながら受贈者(受け取った側)がそれを使わずに貯めていた場合、贈与税の対象となります。
相続時精算課税
相続時精算課税とは、贈与税の申告書を提出する際に「相続時精算課税選択届出書」を提出すると、累計2,500万円までの贈与が非課税になる制度です。
ただし、この制度は贈与税と相続税を“通算”する制度であり、贈与者が亡くなった(=相続が発生した)際、生前贈与額と相続財産額を合算した金額に相続税が課されるため、注意が必要です。
なお、2024年1月からは、別途年間110万円の基礎控除が創設されています。この基礎控除は特別控除(2,500万円)の対象外であり、相続発生時に相続財産に加算されません。なお、この相続時精算課税制度を利用した場合、暦年贈与は利用できなくなります。