人材費削減や若手人材の待遇向上など、さまざまな理由により「早期退職優遇制度」を採用している企業も少なくありません。早期退職の場合、定年退職よりも上乗せされた退職金が受け取れるというメリットはありますが、安易な判断では思わぬ「老後破産危機」に陥る可能性も……。58歳Aさんの事例をもとに、早期退職の落とし穴と注意点についてみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
あれっ、あの人辞めたんじゃないの?…月収60万円・貯金3,500万円だった58歳元サラリーマン「喜んで早期退職」も、1年後に“半ベソで出戻り”のワケ【CFPが解説】
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抜群の営業成績も「社則」で役職定年に…給与が激減したAさん
現在58歳のAさんは、大学を卒業後、都内の上場企業である食品加工会社のC社に就職しました。
営業部に配属されたAさんは、持ち前のコミュニケーション能力を発揮し、抜群の営業成績をあげて営業部長に昇進。役員候補の呼び声も高いAさんでしたが、社則により、55歳で役職定年を迎えました。
役職定年後は、給与が激減します。月収は95万円から60万円に、年収に直すと400万円以上の減額となってしまいました。
また、後任の営業部長には、海外畑でAさんとあまり面識のない、2歳年下の後輩が就くことに。Aさんとは考え方が異なり、その仕事ぶりについAさんが口を出し、衝突してしまうこともありました。
定年退職まではあと数年あるものの、部長としての決裁権もなくなり、敏腕営業部長から“ただの社員”に成り下がってしまったように感じたAさんは、どんどん仕事への熱意が失せていったのでした。
Aさんには、妻でパート勤めのBさん(55歳)と3人の子どもがいます。自宅である都内の分譲マンションには、AさんとBさんのほか、大学3年生の長男がおり、65歳まで住宅ローンの返済が続きます。長女はすでに家庭をもって遠くに住んでおり、大学1年生の次女は地方で下宿をしています。
「大学に通う子どもたちの学費や住宅ローンがまだ残っているけど、もうしんどいな……」
Aさんはこのまま働き続けるかどうか悩んでいました。
俺が輝ける場所は他にある!…Aさんは「早期退職」を決断
とはいうものの、Aさんの現在の肩書は「営業部付部長」です。C社の取引先の多くは以前と同様、C社を訪れると、新部長よりも真っ先にAさんとあいさつを交わします。
(俺の求心力はまだまだ健在だな。会社のルールのせいでこんな立場にいるが、俺はまだ求められている!)
Aさんは心のなかでこう思っていました。
そんなとき、C社に「早期退職優遇制度」があることを同僚から聞いたAさん。調べてみると、早く退職する代わりに、60歳で定年退職するよりも上乗せした退職金を受け取れるそうです。
「取引先のツテで、すでに再就職先の当てはいくつもある」と考えたAさんは、「よし、こんな会社さっさと退職して、もっとバリバリ働ける環境に転職しよう!」と、58歳でC社の早期退職を決断しました。