年金受給を先送りする場合、増額された年金を一生涯受取る繰下げ受給のほか、さかのぼって年金を一括受給するという方法もあります。さかのぼって一括受給する方法は、2023年の法改正により利用しやすくなりましたが、実は見逃せない弊害も。本記事では、Aさんの事例とともに年金のさかのぼり受給の注意点について、オフィスツクル代表の内田英子氏が解説します。
69歳独居父、息子一家の正月帰省を心待ちにしていたが…「900万円貸して」まさかの告白に狼狽。「老後資金には手を出したくない」苦悶の末“年金事務所”で調達できたワケ【FPが解説】
2023年4月からの「年金繰下げ制度」の一部改正
最後に、さらに異なる情報で混乱させるようですが、法改正により、2023年より特例的な繰下げみなし増額制度が始まっています。この特例について概要をお伝えしておくと、70歳を過ぎて公的年金のさかのぼり一括受給を行う場合に、時効により受け取れない年金が発生するところ、繰下げ受給との合わせ技により、無駄なく年金を受け取れるようになる制度です(※対象は昭和27年4月2日以降生まれの方)。
この特例を適用することにより、たとえばもし72歳で年金をさかのぼって一括受給する場合、年金には5年の時効があるため、本来であれば67歳から5年間分の年金を一括受給するということになりますが、67歳時点で繰下げの申し出があったものとして、2年間繰り下げられた年金5年分をさかのぼって一括受給しながら、以降2年分増額された年金を受け取れるようになります。まさに、さかのぼり一括受給の弊害を減らし、利用を促すような特例です。
しかし、年金をさかのぼって一括受給すると、Aさんの事例のように税金や社会保険料の追納と延滞税という新たな弊害が発生する可能性もあります。老後にまとまったお金を受け取れる公的年金のさかのぼり一括受給と特例は注目すべき制度ですが、その弊害は決して小さなものではなく、見逃せません。年金の受取りを先送りする場合は、シンプルに繰下げ受給一本で計画を立てられたほうがいいでしょう。万が一さかのぼって一括受給せざるを得ない場合は、追納分と延滞税を差し引いた「手取り額」を試算したうえで受取りを検討しましょう。
〈参考〉
延滞税の計算方法(所得税)
https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/entaizei/keisan/entai.htm#keisan
「健康保険料等に係る延滞金の割合の特例について」の一部改正について
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc5888&dataType=1&pageNo=1
特例的な繰下げみなし増額制度
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2023/r5_kurisage_kaisei.html
内田 英子
FPオフィスツクル代表
ファイナンシャルプランナー