さかのぼり一括受給の弊害

予定していた繰下げ受給ではなく、年金をさかのぼって一括受給する選択を決断したAさんでしたが、後日思わぬ請求により、さらなる老後危機に見舞われました。公的年金をさかのぼって一括受給することによって、所得税と住民税、介護保険料の追納とともに延滞税・延滞金の請求を受けたのです。

延滞税とは、決められた期限までに納めなかった税金に対して課せられるペナルティで、遅れた日数分かかります。公的年金は所得税の課税対象で、1月から12月までの年金に対する所得税の納税期限は翌年の3月15日です。まとめて受け取ったのだから、個人年金保険のようにその年の収入にまとめてなるのでは?と思いそうなものですが、さかのぼって受給した公的年金は受給した時点で過去の各年の所得に振りわけられるようになっており、所得税も過去5年間にさかのぼって発生する、というしくみになっているのです。

ここで重要なのは、さかのぼって年金を一括受給すると、その時点で各年の所得に振りわけられるという点です。各年の所得に振りわけられると、住民税や国民健康保険料、介護保険料にも影響を与えます。国民健康保険料と介護保険料の計算方法は自治体によっても違いますが、住民税と所得税同様に所得に応じて増える仕組みとなっています。そのため、給与などの収入を得ながら年金受給を先延ばしし、さかのぼって一括受給する場合は追納が発生する可能性があります。

なお、所得税と住民税は過去5年間さかのぼって請求されますが、国民健康保険料と介護保険料の時効は原則として2年です。Aさんのように勤務先の健康保険に加入している場合は、国民健康保険料の支払いは不要ですが、もし国民健康保険に加入されている方であれば、所得税と住民税、介護保険料だけではなく国民健康保険料も追納が必要になる可能性があります。

追納が発生すると、それに伴い、延滞税(延滞金)も発生します。延滞税(延滞金)の割合は納期限の時期によりますが、直近では低金利を反映し、特例により2.6%~2.4%もしくは8.9%~8.7%と引き下げられてはいるものの、とても高い割合です。Aさんのケースでは、年金による所得が各年に振りわけられ加算されたことにより追納が発生し、さらに所得税と介護保険料の料率が上昇、延滞金とあわせて約90万円の支払いが発生しました。