一家の大黒柱として長年勤め上げたサラリーマン。「もちろん家族も感謝してくれているだろう」そう本人は思っていても、実は家族の評価はそうではなかった……といったことは少なくありません。今回は、そんな悲しいケースについて、中島さん夫妻(仮名)の事例と共にCFPの伊藤寛子氏が解説します。
家族のために身を粉にして働いてきたんだぞ…元食品スーパー勤務・年金月16万円の65歳男性、ようやく穏やかな老後生活を送れるはずが…ある日手渡された「一通の書類」で急転直下。悲しみの老後へ【CFPの助言】
離婚後に受け取れる年金の現実…妻が下した決断
一方、奈美さんは今後自分が年金生活に突入し、離婚後の住まいにかかる家賃や生活費を払い続けていけるのか、心配になりました。
離婚をした際に、婚姻期間中の厚生年金を夫婦間で分割することができる「年金分割」という制度があります。年金分割には合意分割制度と3号分割制度があります。
3号分割制度は、妻(または夫)のいずれかが国民年金の第3号被保険者であった場合に、平成20年4月1日以後の婚姻期間中の第3号被保険者期間における相手方の厚生年金記録を2分の1ずつ、夫婦間で分割することができる制度です。
中島さん夫妻は共働きで両方が厚生年金を支払っているため、合意分割制度が適用されます。婚姻期間中の厚生年金記録を夫婦間で分割することができ、中島さんの方が厚生年金記録が多いため、奈美さんからの請求により中島さんから奈美さんへ分割がなされます。
年金分割によって自分の年金がどれくらい増えるのか知りたい場合、年金事務所で「年金分割のための情報通知書」を請求して調べることができます。この通知書は離婚前であれば相手に知られることなく、単独で請求が可能です。
通知書を請求して手にした奈美さんは、分割後の年金額と、離婚後の暮らしにかかる費用を想定して比べてみましたが、とてもではありませんが賄える額ではありませんでした。仮に財産分与で1,000万円を手にすることができたとしても、それだけでは長い老後には心許なく、仕事を辞めずに働き続ける必要がありそうです。
離婚をしても、財産分与をした資産と年金があればモラハラ夫から解放されて自由気ままに生きられるのではと考えていましたが、現実的には難しそうなことがわかってきました。
夫の中島さんとこの先も一緒に暮らしていくのは耐え難いものの、金銭的なことを考えると背に腹は代えられず、結局、苦渋の決断ではありましたが離婚を踏みとどまることにしたのです。
中島さんは離婚の話し合いの中でようやく奈美さんの不満を知ることになり、自分を変えようと努力しています。しかし、奈美さんの不満は長年の蓄積によるものですから、そう簡単に解消はできません。家庭内別居のような状態が続いており、今後2人が歩み寄れるかどうかも分からない状態です。
ライフプランの共有がコミュニケーションにつながる
長年の夫婦生活の中で価値観の違いや不満が積み重なり、もう一緒に暮らしていくことは考えられずに熟年離婚を思い至る、ということは珍しくない話です。しかし金銭的な面を見ていくと、中島さん夫妻のように離婚に踏み切れないケースも少なくないでしょう。
熟年離婚は長年の蓄積された不満や、コミュニケーション不足から生じることが多いと言われています。日々の生活の中で、不満をため込まずに相手に伝えて話し合うこと、相手の意見や行動を頭ごなしに否定せずに、受け入れる姿勢を持ってお互いを尊重して暮らしていくことが大切です。
そして、将来のライフプランについて共有することも、コミュニケーション不足の解消に効果的です。子どもの独立後や、定年退職後の生活設計について一緒に考え、家計や老後の資金計画を共有することで、お互いの価値観を見直すことができます。
これからも夫婦関係を続けていく場合、お互いを尊重して暮らしていくために歩み寄るきっかけになるのではないでしょうか。
伊藤 寛子
ファイナンシャル・プランナー