一家の大黒柱として長年勤め上げたサラリーマン。「もちろん家族も感謝してくれているだろう」そう本人は思っていても、実は家族の評価はそうではなかった……といったことは少なくありません。今回は、そんな悲しいケースについて、中島さん夫妻(仮名)の事例と共にCFPの伊藤寛子氏が解説します。
家族のために身を粉にして働いてきたんだぞ…元食品スーパー勤務・年金月16万円の65歳男性、ようやく穏やかな老後生活を送れるはずが…ある日手渡された「一通の書類」で急転直下。悲しみの老後へ【CFPの助言】
1日中家にいる夫…妻の我慢や鬱憤が限界突破
中島さんにとって離婚宣言は青天の霹靂でしたが、奈美さんにとってはそうではありませんでした。
長時間労働や不規則な勤務体系になることも多かったため、家庭の事はほぼ奈美さんに任せきりでしたが、中島さんは「俺が家族を支えてやってるんだから当たり前」とばかりに奈美さんに感謝の言葉や行動もありませんでした。家のことには非協力的にも関わらず、「父親が絶対だ」と自分の考えを家族にも押し通していました。
そんな夫のモラルハラスメントに長年我慢を重ねていた奈美さん。奈美さん自身も共働きで家計を支え住宅ローンも背負っているのに、俺が大黒柱だという考えや態度で接してくる夫に、いつしか離婚が頭にちらつくようになっていったのです。
中島さんは退職した後、特にすることもないのに、奈美さんの家事負担が軽くなることはありません。家にいる時間が増えたことで関わる機会が増え、一層我慢や鬱憤が積み重なっていきました。
そうして限界を超えた奈美さんは、ついに離婚を切り出したわけです。
離婚後の財産分与に立ちはだかる壁とは?
中島さんは、まさか離婚を切り出されるとは思いもせず、奈美さんが離婚に思い至った理由すらわかりませんでした。離婚届を渡されて、初めて妻が自分との生活に不満を持っていることを知ったのです。
一方、離婚を決心した奈美さんは、離婚に向けて動き始めました。子どもはとっくに成人しているため、問題は離婚後の財産と年金がどうなるかです。
離婚をする際は、夫婦が婚姻期間中に形成した財産を公平に分割するための「財産分与」という制度があります。離婚をした夫婦のうち一方が、相手に対して財産の分与を請求することができるという仕組みです。割合は原則2分の1とされていますが、お互いの合意によって分割割合を変えることもできます。
財産分与を請求するには、離婚から2年の期限があります。離婚から2年が経過すると家庭裁判所に申立てをすることができなくなり、相手の同意なしには財産分与を受けられなくなってしまうため、注意が必要です。
中島さん夫婦が財産分与する場合に問題になるのが、まだペアローンが残っている自宅でした。中島さんは、せっかく手に入れて老後生活をゆっくり送る予定でいたマイホームを手放すつもりはありません。一方、奈美さんは心機一転、住まいも含め新たな暮らしを始めたいと思っています。
中島さんが自宅に住み続けるためには、住宅ローンを一本化して、中島さんが返済義務を負う必要があります。しかし、ペアローンの単独債務化については、借入先の金融機関はさまざまなリスクの観点から消極的です。
さらに、中島さんは年金生活者になり収入が減少しています。現役時代よりも返済能力が低下しているため、今よりも返済額が増える住宅ローンの借り換えは難しく、住宅ローンを一本化する目処が立ちません。ペアローンを組んだことが、離婚の大きな壁になっていました。