人材費削減や若手人材の待遇向上など、さまざまな理由により「早期退職優遇制度」を採用している企業も少なくありません。早期退職の場合、定年退職よりも上乗せされた退職金が受け取れるというメリットはありますが、安易な判断では思わぬ「老後破産危機」に陥る可能性も……。58歳Aさんの事例をもとに、早期退職の落とし穴と注意点についてみていきましょう。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
あれっ、あの人辞めたんじゃないの?…月収60万円・貯金3,500万円だった58歳元サラリーマン「喜んで早期退職」も、1年後に“半ベソで出戻り”のワケ【CFPが解説】
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ウキウキで早期退職したが…Aさんを襲う「想定外」の連続
退職後の貯金は、上乗せされた退職金を含めて3,500万円ほどになりました。
しかし、あらかじめ想定して貯めていたとはいえ、子どもたちの学費や住宅ローンの返済により、お金はどんどん減っていきます。また、“想定外の出費”により、A家の支出は働いているころよりも増えてしまいました。
その想定外の原因とは、「税金」と「保険料」です。
それまでのAさんは、住民税や、健康保険・厚生年金保険といった社会保険料がすべてAさんの給与から天引きされていたほか、妻のBさんも「第3号被保険者」として国民年金保険料を納付する必要はありませんでした。
しかし、今後はAさんとBさんそれぞれ、60歳まで毎月1万6,980円(令和6年度)の国民年金保険料の納付が必要になります。
また、会社の健康保険とは異なり、国民健康保険には「扶養」の考えはありません。世帯の所得と人数で保険料が決まります。そのため、生計を一にしている次女の分も含めて自治体からの請求に従って納付が必要になってしまいました。
さらに、いままでは自宅から都心まで出向くのに通勤定期を使っていましたが、これからは職を探すにも、友人と会うにも、その都度交通費を支払います。
仕事熱心な分「無趣味」だったAさんは、目的がなければ1日中自宅にいることも多く、それだけ光熱費も増えました。
Aさんが想定していなかった「最大の誤算」
そして最大の誤算は、転職先が見つからないことです。Aさんが退職時まで取引先からチヤホヤされていたのは「C社」の社員だったからで、C社を退職した現在はただの59歳の無職です。
Aさんが信じていた「いくつもの転職先」も、ふたを開けてみればそのときの世間話で、実際にあっせんしてくれる人はひとりもいませんでした。目論見が外れてしまったAさんはひどく落ち込みます。
さらに追い打ちをかけるように、妻のBさんから「ねえ、ずっと家にいるけど、仕事はすぐに見つかるんじゃなかったの? 学費もローンもあるし、退職金が多かったとはいえ、年金をもらうのはまだずいぶん先だけど……」と言われ、今後が心配になったAさんは、ファイナンシャルプランナーである筆者に相談することにしました。